珈琲は、美味しいものですよね。朝起きて、まずいっぱいのカフェ・オ・レ。ランチのパスタの後に、エスプレッソ。午後にはモンブランに添えて、ブラック・コーヒーとか。
珈琲といえば、バルザック。バルザックが珈琲好きだったのは、有名な話ですよね。一日に何十杯もの珈琲を。バルザックの小説を読んでいると、はるか遠いところから珈琲の薫りが漂ってくるのは、そのためでしょうか。
では、バルザックはどんなふうにして珈琲を淹れたのか。ドリップ式で、水で。珈琲豆の上に水を注ぎ、後でそれを温めて飲んだ。バルザックにとってはそれが最上の珈琲だったようですね。
バルザックは小説を書くことに、命をかけた人。
珈琲を淹れることに命をかけたのが、標 交紀。むかし吉祥寺、井之頭公園の近くにあった、「もか」の店主。ただし、「もか」は今はありませんが。1980年代までの「もか」は、珈琲の聖地とされたものです。
珈琲を淹れるのもまた、総合藝術で。豆をはじめ、何ひとつ疎かにはできません。ことに標 交紀が大切にしたのが、温度。湯が豆に当たる瞬間の温度。標は、64度が最適とした。ある時、珈琲学の大家、井上 誠が「もか」に来て言った。
「標君、やはり63度で淹れるべきだよ。」
それでもなお、標 交紀は64度を主張したそうです。
珈琲が出てくるミステリに、『眠りなき狙撃者』があります。1981年に、ジャン=パトリック・マンシェットが発表した物語。
「卵、ベーコン、焼きソーセージ、小ぶりだが中身の膨れあがったクレープ、メープルシロップ、そしてブラックコーヒーから成るカロリー満点のブランチをとっているところだった。」
これは「コックス氏」の食事の様子。また、『眠りなき狙撃者』には、こんな描写も出てきます。
「ベージュの三揃いのスーツ、濃い青のストライプ入りのしゃts、そのシャツの丸くなった襟先にピンを通し、濃紺の絹のネクタイを完璧に結んで………………………」。
これは、スタンレーという男の着こなし。ラウンド・カラーなんですね。フランス風には、「コル・ロン」c o I r ond 。
時には、コル・ロンのシャツで。美味しい珈琲を飲みに行きたいものですね。