ずい、ずいは、童謡ですよね。
♬ ずい、ずい、ずっころばし、胡麻味噌、ずい、茶壺に追われて、とっぴんしゃん、抜けたら、どんどこしょ、俵のねずみが米食ってちゅう、ちゅう、ちゅう、ちゅう…………………。
これは童謡でもあり、また遊戯でもあったようです。まあ、一種の鬼ごっこにも似ていたらしい。少なくとも明治中期までは、ごくふつうに歌われていたんだそうですね。
ずいずい………は一説に、江戸期のお茶壺道中が下敷きになっているとか。江戸時代にはお茶壺道中があった。将軍様がお飲みになる特別のお茶を宇治から江戸城まで運んだ。それが、お茶壺道中。
仮に大名であっても、お茶壺道中に差し掛かると、籠を降りて、頭を下げた。まして町民がお茶壺道中の邪魔をするのは、狂気の沙汰。
このお茶壺道中の悲喜劇を描いたのが、『蓆』。
松本清張が、昭和三十一年に発表した短篇。
「一行の通行に当たる宿々では、腫れものにさわるように送迎しなければならなかった。」
「一行」が、お茶壺道中を指しているのは、いうまでもないでしょう。ひとつ間違えば切腹が待っているのですから。まあ、江戸時代には、そんなことも含まれていたのでしょうね。
ずい、ずい………が出てくる資料に、『東京風俗志』があります。平出鏗二郎が、明治三十五年に発表した歴史書。
「あるいは「ずい、ずい、ずっころばし」とて、各々拳を出だし………………」。
と遊戯を細かく紹介しています。また、『東京風俗志』にはこんな説明も。
「外套は、冬は羅紗、綾メルトン、「スコッチ」、夏は絢緞、「アルッパカ」を用ふるなり。」
平出鏗二郎は、明治中期に、「アルッパカ」と書いています。おそらく「アルパカ」のことでしょう。
ここでの「スコッチ」は、いまのトゥイードのことです。スコッチ・トゥイードを短くして、「スコッチ」となったものです。
スコッチ・トゥイードの外套で、童謡を歌えるものでしょうか。