ベージュは、色の名前ですよね。ベージュ b e ig e 。もともとはフランス語なんでしょうね。
ベージュをフランス風に解するなら、「自然色」とするのが、妥当なところではないでしょうか。たとえば、ごく自然のままの、ウールの色。脱色も、染めてもいない、あるがままのウールの色。それが本来の「ベージュ」の意味かと思われます。
でも、ベージュもまた言葉であってみれば、時代によって拡大解釈されることもあるに相違ありません。
もし着こなしに大学生と高校生があるとすれば、ベージュは大学院生向きだと思います。少なくとも中学生にベージュは、難しい。
「自然色」の着こなしに難しいことがあろうとは思えないのですが。実際にはよほど上級者でなければ着こなせない色なのであります。逆に、ベージュの服装がさらりと似合っていれば、それはよほどの達人だと考えて間違いないでしょう。
ベージュが出てくる小説に、『もどってきた鏡』があります。1985年に、フランスのアラン・ロブ=グリエが発表した物語。
「そこでは、ベージュ色の大きな牛たちが、まるで背景のように植えられてじっと動かない森の斜面と斜面のあいだを……………………。」
たしかに。言われたみれば、「ベージュ」の牛もいるように思われます。また、『もどってきた鏡』には、こんな描写も。
「ペルカル地のエプロンをまるで小さなドレスのように着ている七、八歳の私が写っている………………………」。
これはおそらく、1930年代の、フランスの少年の姿なのでしょう。
では、ペルカル p erc a l e とはなにか。平織りの綿布のこと。昔の日本での、「金巾」に似た生地のことです。
「金巾の蝙蝠傘の一本宛も呉れる様になるかも知れぬ。」
徳冨蘆花が、明治三十四年に書いた『思出の記』に、そのように出ています。金巾と書いて、「かなきん」と訓んだものです。
当時、船会社同士の競争が激しくなって。乗船客になにかと無料で配ったことがあるらしい。そのことを皮肉った文章なのです。
傘のカノピーに使えるなら、シャツ地にも使えるでしょう。いや、実際に使われたのでありますが。ただ、今は「金巾」とは呼ばないだけのことで。これも古い言葉ですが、「キャラコ」のことです。
ああ、はやくベージュ色のシャツが似合うようになりたいなあ。