モオムは、イギリスの小説家ですよね。ウイリアム・サマセット・モオムのことです。
ただ、モオム自身は、「ウイリアム」の名前があまりお好きではなかったらしく、もし必要があるときは、「サマセット・モオム」とした。仮に、頭文字を求められたなら、「S・M」と記したのではないかと、思われるほどです。
モオムは、1954年に『世界の十大小説』を著しています。それは、ヘンリー・フィールディングの『トム・ジョーンズ』にはじまり、トルストイの『戦争と平和』に終っています。
十九世紀の小説というくくりですから、当然でもあるでしょう。が、たとえ二十世紀の「世界十大小説」をモオムが選んだとしても、『月と六ペンス』や、『お菓子とビール』、『人間の絆』、『剃刀の刃』は入れなかったことでしょう。だから、と言いつのるわけではありませんが、英國を代表する作家だったと思います。
モオムは、イギリス人の「シャイ」を多く持っていた。そうも言えるでしょう。モオムはあまりにもイギリス的なイギリス人だった。
そのモオムがフランスに生まれ、フランスで世を去っているのは、皮肉なことですが。
モオムの小説のネタは旅にあった。モオムは旅することによって、多くの物語を紡ぎ出しています。が、モオムはシャイで、旅に出ても自由に会話ができない。そこでいつも会話担当の秘書と一緒だったのですね。会話担当秘書から、話の種を拾ったのであります。
モオムの、『剃刀の刃』の中に、こんな一節が出てきます。
「むしろもう一年間も毎日着つづけてでもいるかのような、妙な無造作で着こなしていた。」
これは、グレイという英国人の様子について。おそらくモオムは、この「妙な無造作」こそ最高の着こなしだと考えていたものと思われます。
また、『剃刀の刃』には、こんな話も出てくるのですが。
「頭文字のEとTとを絡み合わせてすぐ上に、なんと伯爵の冠がはいっていることだった。」
これはアメリカ人の、エリオット・テンプルトンの絹のトランクスのこと。エリオット・テンプルトンは「シャルべ」でトランクスを誂え、モノグラムをあしらってもらう場面。
「わたしは黙っていた。」
と、モオムは書いています。
まあ、モオムを読むのは、いろいろ勉強になりますね。