井伏鱒二とインバネス

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井伏鱒二は、日本の優れた作家ですよね。代表作は、『山椒魚』でしょうか。『黒い雨』でしょうか。
井伏鱒二はまた随筆の名人でもあります。たとえば、『風貌・姿勢』。『風貌・姿勢』は数多い井伏鱒二の随筆の中でも異質な内容になっています。それぞれの文章にそれぞれの写真が添えられている点で。その写真を撮したのが、作家の中島健蔵。
これにはちょっと説明が必要でしょう。まずはじめに中島健蔵の写真があったのですよね。その中島健蔵の写真に合わせて、井伏鱒二が随筆を書いたものです。

「高い鼻、福耳、鼻眼鏡、いま正に発言しかけてゐるやうな唇。この写真なら、シルエットにしても佐藤先生であることがわかる。」

井伏鱒二は『風貌・姿勢』の中で、そのように書いています。もちろん、「佐藤春夫」のことを。昭和三十八年の撮影。最初、中島健蔵が佐藤春夫を撮し、その後、井伏鱒二が随筆を寄せたものであります。
中島健蔵は写真について。
「プロの写真家として評価してもらひたい。」
そのように言ったそうです。なるほど中島健蔵の『佐藤春夫』は、素人ばなれしています。

素人ばなれしている点では、井伏鱒二の「絵」もまたその通りでしょう。井伏鱒二は少年の頃から画家になるのが夢だったそうですから。
井伏鱒二が昭和二十二年に発表した自画像に、『早春釣魚』があります。鉛筆画。疎開中の故郷、「粟根」で描いた一枚。
ここでの井伏鱒二はハンティングにインバネスを羽織っての着物姿になっています。
インバネスは着物にも洋服にも重ねられるのが、特徴でしょう。その昔、スコットランドのインヴァネスに、極厚の生地があって、それで仕立てた旅行用外套にはじまっています。
どなたか極厚のメルトンでインバネスを仕立てて頂けませんでしょうか。

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