ジゴは羊の脚のことですよね。
gigot と書いて「ジゴ」と訓みます。
ジゴは服飾用語にもあり、料理用語にもあるのは、ご存じの通り。
まるで羊の脚のような袖の形を、「ジゴ」。形のところで大きくふくらんで、袖口にかけてだんだんと細くなっている袖のことです。
英語にも同じ発想の表現がありまして、「レッグ・オブ・マトン」。そのものずばり「羊の脚」と呼ぶわけですね。
女性用のブラウスにもありますし、上着や外套にも、レッグ・オブ・マトン型の袖がつけられることがあります。
十八世紀のヨオロッパでは、紳士服のデザインに、「ジゴ」があったほどです。
西洋料理での「ジゴ」はごちそうであります。
「フランスで、最も上等な肉はといえば仔羊の肉。特に、海岸付近の牧場で、塩分を含んだ牧草を食べて育ったプレサレと呼ばれる仔羊の肉が最高だと言われています。」
辻 静雄の『家庭のフランス料理』には、そのように出ています。
辻 静雄の『家庭のフランス料理』は、カラー写真がふんだんに使われています。食前書にも最適。おもわずよだれが出てくるほど。
また題名通り、家庭でのフランス料理を念頭に置いていますから、作ってみたくなる本でもあります。本の通りに仕上がるかどうかは、さておくとして。
「濠州のね、マトン、羊肉ね、これがまたとてもうまいものなんだ。」
昭和二十八年に、作家の堀田善衛が発表した『砕かれた顔』に、そんな会話が出てきます。ここでの「濠州」がオーストラリアであるのは、言うまでもないでしょう。オーストラリアは羊の国ですからね。
この小説の時代背景は、昭和十八年頃に置かれているのですが。
「二人は駅のすぐ向いの喫茶店に入った。コーヒーが二つ。六十銭払って彼はチケットを買った。喫茶店も混んでいた。」
堀田善衛はそのようにも書いてあります。昭和十八年のコーヒーは一杯三十銭だったのでしょうか。それも本物のコーヒーではなくて、代用コーヒー。戦争で、本物のコーヒーは輸入が難しくなっていましたから。
「ベティさんが長年にわたって習得したマトンやラムの味をひきたてるためのソース漬けが前日から用意されてあった。」
山本道子が、昭和四十七年に発表した小説『ベティさんの庭』に、そんな一節が出てきます。
山本道子の『ベティさんの庭』は、昭和四十八年に、「芥川賞」を受けています。
山本道子昭和四十三年に、ご主人の仕事の関係で、オーストラリアのダーウィンに移住。つまり、『ベティさんの庭』は、オーストラリアのダーウィンを背景にした小説なのですね。もちろん、これからバーベキューをはじめるところ。
ジゴが出てくる小説に、『愛の一ページ』があります。フランスの作家、エミール・ゾラが、1878年に発表した物語。
「いつもと同じで、お料理は三つです。それ以上はありませんよ ヒラメの切り身のあとは、ジゴとブラッセル風キャベツがありますけれど ほんとうですったら。」
これは「ロザリー」の言葉として。たぶんゾラもジゴがお好きだったのでしょうね。
また、『愛の一ページ』には、こんな描写も出てきます。
「やがてゼフィランはロザリーの後についてゆくのだが、シャコーとサーベルを外してからでないと中に入れてもらえなかった。」
ここでの「シャコー」shako は、帽子の名前。クラウンが高く、ヴァイザーの短い帽子。
ケピにも似ていますが、微妙に違います。ケピのクラウンが円筒形であるのに対して、シャコーはやや台形に近いクラウン。つまり勾配のあるヤマになっているのです。
また、ケピの前庇は、ほぼ水平。一方のシャコーの前庇は、ごく自然のカーヴを描いています。
どなたかシャコーを作って頂けませんでしょうか。