スケッチは、素描のことですよね。それはまた、下絵でもあるでしょう。
フランスの世紀末に活躍したロオトレックも、多くのスケッチを遺しています。それはたしかに素描なんですが、立派に「絵画」として完成されているのです。ロオトレックの場合、素描がすでに絵画という一例とも言えるでしょう。
スケッチ sketch はギリシア語の「スケディオス」から出ているんだとか。「スケディオス」は、フリーハンドの意味であったという。
井伏鱒二の随筆に、『或る日、生垣のスケッチ』があります。「或る日、生垣のスケッチ』は、昭和六年『文学時代』一月一日号に発表された随筆。
井伏鱒二は、短い随筆に「スケッチ」と名づけのが、お好きだったようです。ほかにも『岡の上のスケッチ』などもあります。『或る日、生垣のスケッチ』に。
「東西屋の宣伝ぶりは効果があつた。」
と、あります。井伏鱒二の自宅近くに、「カフエ・マリオ」が開かれて。それを「東西屋」が宣伝を。「東西屋」は、広め屋のこと。『或る日、生垣のスケッチ』には、当時の「カフエ」の様子が詳しく出ていて、貴重な資料にもなっています。
スケッチが出てくるミステリに、『目は嘘をつく』があります。ジェイン・スタントン・ヒッチコックが、1992年に発表した物語。
「わたしは舞踏室の壁にじかにスケッチしはじめた。」
画家の、フェイス・クロウェルが、富豪のフランシス・グリフィンに、壁画を依頼される場面。
『目は嘘をつく』にはこんな描写も出てきます。
「首に巻いた長い純白のシルクのスカーフをもてあそびつつ…………………」。
これは、ハリー・ピットという古美術商の男のしぐさ。
ハリーは、「七十代で独身…………………」と、説明されています。そして自宅での寛いだ服装に、スカーフ。純白の、絹のスカーフ。
いいですねえ。はやくふだん着にシルク・スカーフが似合うようになりたいものです。そうすればスカーフについての「スケッチ」も書けるのかも知れませんが。