剃刀の刃は、便利なものですね。これがないと、男は生きてはいかれません。剃刀の刃があるからこそ、紳士のふりができるのです。
むかしの剃刀の刃は、やっかいでした。長い、片刃の剃刀を、よく砥いで、シャボンをつけて。よくケガしたものです。
今は交換式の剃刀ですから、なんの苦労も要りません。さっさと剃って、さっさと替えるだけ。
あの替え刃式の剃刀を発明したのが、アメリカ人、キング・キャンプ・ジレット。1895年のことであります。もちろん今の、「ジレット」のはじまり。
『剃刀の刃』という小説を書いたのが、モオム。イギリス人のサマセット・モオム。『剃刀の刃』の発表は、1942年。ただし物語は、1919年頃。主人公は、アメリカ人の、ローレンス・ダレル。『剃刀の刃』は、1946年に映画化もされています。つまり、好評だった小説でもあります。
おおよそモオムの小説は、ぜんぶで五千万部ほど売れたと、考えられています。そのうち「剃刀の刃』は、六百万部くらいは売れたらしい。当時のアメリカ人が、主人公のローレンス・ダレルに共感したためであります。
剃刀の刃が出てくる小説に、『クイズあそび』があります。ジェイムズ・サーバーが、1960年代に書いた物語。
「使ったあとのカミソリの刃ですか? カミソリの刃はわざとおいてきたのですが。」
ほぼ同じ頃、ジェイムズ・サーバーは、『カフスボタンの謎』も書いています。
「いやね ー カフスボタン、金の台にトパーズをはめたやつで…………………。」
これはある男が落としたカフ・リンクスを探している場面。
金の台にトパーズ。いやいや、そこまでは申しませんが。なにかカフ・リンクスを嵌めて、『剃刀の刃』の初版本を探しに行くとしましょうか。