シュラーという絹織物があるんだそうですね。滑らかな、緻密な、綾絹。s ur ah と書いて、「シュラー」と訓みます。
シュラーは、もともとフランス語。軽やかなドレスなどに最適の生地。その昔、クリスチャン・ディオールはシュラーの生地を好んだと伝えられています。
シュラーは、インドの地名、スーラト S ur at が語源とのことです。遥か遠いむかし、インドのスーラトで織られて、やがて世界に広まった生地なので。
スーラトは、インドの、グジャラート州に位置しています。今日でもスーラトはダイヤモンドのメッカ。ダイヤモンドの多くは、このスーラトでカットされ、研磨されているとのことです。そしてダイヤモンドの他、織物産業が栄えている都市。
「マルサント夫人は大きなシュロの葉模様の白いシュラー織のドレスを着ていて、その葉模様のうえに際立つ布製の花は真っ黒であった。」
マルセル・プルート著『失われた時を求めて』には、そのように出ています。少なくとも1900年代の巴里では、貴婦人にシュラーが好まれていたことが窺えるでしょう。
『失われた時を求めて』には、当然のようにシルク・ハットも出てきます。
「そのころ流行のやり方にしたがい、ふたりは自分のシルクハットをそばの床のうえに置いた。」
「ふたり」とは、ゲルマント男爵と、シャテルロー公爵殿下のことを指しています。
なるほど。それぞれの時代によって置き方が異なってくるのでしょう。でも、いつの時代にも変わらないことは、クラウンを下にして置くこと。
つまり、クラウンの内側が上を向くように。このほうが安定が良いし、シルク・ハットの空洞部分に、手袋などを入れておけるので。
もっとも、シルク・ハットも、シュラーも夢物語ではありますが。