寝室は、ベッド・ルームのことですよね。睡眠室のことであります。
寝室に必要なものは、ベッド。もっとも和室に蒲団というのがお好きなお方もいらっしゃるでしょうが。
青畳の薫りの六畳に、行燈があって、絹蒲団なんてのも、悪くはないかも知れませんね。
蒲団もまた、小説の題になります。田山花袋が、明治四十年に発表したのが、『蒲団』。日本はじめての「私小説」という説もあるようです。
『蒲団』の主人公は、竹中時雄。三十代の小説家。この竹中時雄のところに弟子入りしてくるのが、横山好子。横山好子の戀人が、田中秀夫という設定になっています。
「私小説」であろうとなかろうと、この物語は実際にあった話なのです。竹中時雄は、もちろん田山花袋。横山好子は、岡田美知代。田中秀夫は、永代静雄がそれぞれのモデルだということになっています。
ところで。田山花袋の『蒲団』と『不思議の国のアリス』とが、関係なくもないといえば、眉に唾をはじめるでしょうか。
永代静雄は、いろんなことがあって後、作家になるんですね。で、そのひとつの執筆として、『不思議の国のアリス』の翻訳を。明治四十一年のこと。ただし、「須磨子」の筆名で。題も『アリス物語』ではありましたが。ただ、最初の日本語訳が、永代静雄であったのは、まず間違いないでしょう。
寝室が出てくる小説に、『マルタの鷹』があります。名作。1929年に、ダシール・ハメットが発表した物語。1941年には、ハンフリー・ボガートの主演で映画化もされています。
「ワイングラスと、背の高いバカーディの瓶を手にして、寝室に戻ってきた。」
もちろん主人公の、サム・スペイドの様子なのですが。
そうそう、寝室には寝酒が必要でしたね。
また、『マルタの鷹』には、こんな描写も。
「押入れには、ていねいに木型をはめた三足の靴の上に、スーツが二着と、外套が一着吊り下げてあった。」
ここでの「木型」は、たぶんシュウ・トゥリーのことでしょう。
脱いだ上着は必ずハンガーに掛けるように。脱いだ靴には必ずシュウ・トゥリーを入れることになっています。靴の型崩れを防ぐために。
まあ、蒲団から出た後は、ちゃんと元どおりにしておくのに、似ています。