カシミアは、繊維のひとつですよね。カシミア山羊の毛のことであります。
カシミア山羊の毛には大きく分けて、二種類があるのです。表毛と裏毛。表毛は、太く、強い。裏毛は、産毛。柔らかくて、細い。
いわゆるカシミアの原料となるのは、カシミア山羊の産毛なのです。より細いカシミアの産毛は、12ミクロンだと言われています。モヘアが約30ミクロンだとされますから、カシミアの優秀さがよく分るでしょう。
では、なぜ、カシミア山羊の産毛は、細いのか。寒さに適応するために。今、カシミア山羊が棲んでいるのは、中国、モンゴル、イラン、アフガニスタンなどの高地。ここでは寒い時には、マイナス40℃くらいまで気温が下がることがあります。その極寒でも生きていかれるための12ミクロンなのです。
もしも暖かい土地でカシミア山羊を育てたとすると、12ミクロンの産毛は生えてこないそうです。
カシミアが出てくる小説に、『鮨』があります。昭和十四年に、岡本かの子が発表した短篇。
「胸も腰もつくろわない少女じみたカシミヤの制服を着て、有合せの男下駄をカランカラン引きずって、客へ茶を運ぶ。」
これは「福ずし」の娘、「ともよ」の様子。また、『鮨』には、こんな文章も出てきます。
「服装は赫い短靴を埃まみれにしてホームスパンを着ている時もあれば」
これは常連の「湊」という男のきこなし。この湊は親父に薦められて、脂ののったカンパチを注文するのですが。
カシミアの出てくる小説に、『青春』があります。明治三十八年に、小栗風葉が発表した長篇。
「海老茶のカシミヤの袴を稍短目に、黒の靴下の細りとした足頸に靴の編上をくい込ませて」
これは大学生の「園枝」の様子。袴に、靴を履いているんですね。
また、『青春』には、こんな描写も出てきます。
「オリイブ色の玉スコッチの手編みのショオルをピンで留めて、黒のカシミアの手袋を穿めて居る。」
これは「繁」という女学生の着こなし。
小栗風葉は、『青春』の中で、「カシミア」とも書き、「カシミヤ」とも書いてあるのですが。
黒いカシミアの手袋、いいですね。フランスなら、「ガン」gant でしょうか。
どなたか黒いカシミアのガンを編んで頂けませんでしょうか。