ドライ・マティーニは、辛口のマティーニのことですよね。ドライ・マティーニは、限りなくジンのストレイトに近いカクテルなのでしょうか。
かのウインストン・チャーチルは、バーテンダーに、ジンを注いだグラスの上からそっと「ヴェルモット」と囁け。そう言った話があるほどに。で、バーテンダーがチャーチルに「お味のほどはいかがでしょう?」と訊ねると。「うーん、ちょっと君の声が大きすぎたかな」。そんなふうに答えたそうですが。
「ここの酒場のバーテンダーはナイフの刃のように研ぎあげたドライ・マティーニが作れるのである。」
開高
健が、昭和五十年に発表した随筆『マジェスティックのマティーニ』に、そんな文章が出てきます。これはサイゴンの「マジェスティック・ホテル」のバアを指してのことです。
開高 健は、世界中からマティーニに煩い連中がやって来た結果だと、推測しているのですが。
「マティーニのおかわりをするために、大理石の床をステッキでコツコツとたたいて合図を送ったのだが、それは素晴らしい見物だった。」
1984年に、金井美恵子が発表した短篇『マティーニの注文の仕方』に、そのような一節が出てきます。
同じバアに六十年通っている老人の様子として。その老人は結局、十二杯のマティーニを飲んだそうですが。
ドライ・マティーニが出てくる小説に、『河を渡って木立の中へ』があります。1950年に、ヘミングウェイが発表した物語。
「ジョルジュ ドライ・マルティーニをもう一杯くれ。うんと辛口のやつをな、二倍も辛口のやつを」
これは「大佐」の注文の仕方として。
『河を渡って木立の中へ』には、こんな描写も出てきます。
「大佐はアンドレアの、少なくとも二十年は着古したろうと思われる美しいツウィードの上衣の粗い手ざわりを感じた。」
うーん。トゥイードは二十年着ないと本物にはならないのでしょうか。
どなたか二十年着たくなるトゥイードの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。