ジャンパー(jumper)

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

毛糸燦々

ジャンパーはスェーターのことである。しかしこれについては少し説明が必要であろう。
ジャンパー jumper には実に多くの意味があるからだ。その多くの中に、「スェーター」が含まれていることは間違いない。
今、『大辞泉」を開いてみると、次のように出ている。

「運動用・作業用の、ゆったりとした上着。防寒・防水にも着用する。ジャンバー。」

そういえば昔は「ジャンバー」の言い方もあったような記憶がある。それはともかく、今、一般の「ジャンパー」には、以上の意味が含まれている。時と場合によっては、「ブルゾン」と言い換えても良いものだ。
今なお使われている言葉に、「革ジャン」がある。これが「革ジャンパー」の省略であることは、言うまでもない。ジャンパーは軽い、楽々とした、肩の張らない上着、そうも言えるだろう。

「ジャンパーは婦人・子供用上着の一種。袖なしの上着で、衿ぐりは、前ぐりだけ大きくくり明けたもの、または前後とも同様に、くり明けたもの等、型はいろいろある。」

三省堂編『婦人家庭百科辞典』 ( 昭和十二年 ) には、其のように解説されている。『大辞泉』とは異なっていることにお気づきであろう。つまり戦前の日本での「ジャンパー」は、主として女性用の軽い上着を指した。それが戦後になって、『大辞泉』の説く意味へと変化したものであろう。
そうなると、改めて「ジャンパー」とは何であるのか。

「ゆったりとしたブラウス、ジャケット、または同型の上着。」

石山 彰編『服飾辞典』では、「ジャンパー」をそのように解説している。そしてさらに、「ジャンパー」には七つの意味があることにも、触れている。
①作業着。
②ジャケットの一種。
③ブラウスの一種。
④袖のないワンピース。
⑤袖なしコートの一種。
⑥子供用の遊び着。
⑦防寒用の毛皮製上着。
以上、ごく簡単に探したところでは、「スェーター」の意味は出てこない。やや、不安にもなってくるほどである。そこで、ドリーン・ヤーウッド著『世界衣裳辞典』を開いてみる。

「紳士、婦人、子供たちが、身体の上半身に着るニット・ウエアのことである。」

そしてこの項目は、「ジャージー、ジャンパー、プルオーヴァー、スェーター」になっているのだ。この項目のすぐ前にあるのが、「ジーン」 jean 。つまり原則として一語について一解説。ところが「ジャージー、ジャンパー、プルオーヴァー、スェーター」に関しては、やや例外的にこの四つの言葉を纏めて、詳述されている。
つまりジャンパーはジャージーである、と考えてよい。ジャンパーはプルオーヴァーであり、スェーターである、として間違いではないのである。
このうち、「ジャージー」と「ジャンパー」は、イギリス英語である。一方、「プルオーヴァー」、「スェーター」はアメリカ英語である。その意味ではフランスの「トリコ」 tricot と似ているかも知れない。フランスではニット・ウエアを総称して、「トリコ」と呼んだりするからである。
ジャージーは今は、ニットの「編み地」を指して使われることが多い。が、もともとは「フィッシャーマンズ・ジャージー」だったのだ。それが後に略されて、ジャージー。これは「ガーンジー」 guernsey もまったく同じこと。「フィッシャーマンズ・ガーンジー」が、単に「ガーンジー」となったものである。もちろん島の漁師たちが着たニットの作業着に他ならない。
ジャージーもガーンジーも少なくとも数百年の歴史を持っている。一方、「スェーター」 sweater は二十世紀に入ってから、漁師の作業着を運動選手が着るようになって、「汗をかかせてくれるもの」となったのだ。
ジャンパーに、「飛ぶ人」の意味があるのはもちろんである。これは古いドイツ語の、「ガンペン」 gumpen と関係があるらしい。「飛ぶ」の意味。jumper とまったく同じ綴りではあるが、着るほうのそれは、フランス語の「ジュープ」 jupe から来ている。「短い服」の意味である。そう言われてみると、スカートも「短い服」であり、スェーターも「短い服」である。

「そのまるでシャツのように着る「ジャンパー」には、フランシスコ教会の修道士の頭巾に似たフードが付いていた。」

エリーシャ・ケント・ケイン著『北極探検記』 ( 1853年 ) に出てくる一文。服としての「ジャンパー」としては、比較的はやい例であろう。ただしこれはスェーターではなく、パーカーに似た毛皮服であったと思われる。

「ジャンパーとは今から数年前、ファッション専門家によって、女性たちがスポーツ・コートの代りに羽織るニット・ウエアに名づけた名称である。」

1930年の『ノート・アンド・クエリーズ』誌の一節。ここから想像するに、イギリスでニット・ウエアを「ジャンパー」と呼ぶ習慣は、1920年代にはじまっているのだろうか。『ノート・アンド・クエリーズ』誌は、1846年創刊の、趣味人のための文芸誌であった。
いずれにしても、イギリスでニット・ウエアを指して「ジャンパー」と呼ぶのは、間違いない。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone