フラップ(flap)

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貴幟鮮明

フラップはたとえば、「フラップ・ポケット」という時のフラップである。ここでは「雨蓋」の意味になる。ポケットの上端に別布を添えることで、中身が飛び出すことを、雨に濡れないための工夫とするわけだ。
そしてまたフラップは、「垂れ布」の意味としても使われる。一例ではあるが、トレンチ・コートにも「ショルダー・フラップ」などがあるのは、ご存じの通りであろう。さらには帽子のブリムが垂れている場合にも、「フラップ」と呼ぶことがある。
あるいは、スコットランドふうの靴の甲に、「キルティ・フリンジ」が付くことがあったりする。あのキルティ・フリンジもまた、フラップの一種と言えなくもない。
余談ではあるが「フラッパー」 flapper もフラップから出ている。「フラッパー」は今ではあまり使われない言葉であるが、「現代娘」の意味で使われたものだ。これは1910年代末からの流行語であった。その頃、甲をバックルで留める靴が流行った。が、あえてそのバックルを留めないで歩く若い女性がいた。パタパタと音がする。その様子を指して、「フラッパー」と呼んだのがはじまりであるという。
仮に旗を立てていたとして、その旗が風にはためいたとする。それもフラップと形容する。つまり「フラップ」は、オノマトペ( 擬音語 ) から出ている言葉でもあるのだ。
いつもお世話になる、ハーディ・エイミス著『ファッションのABC』 ( 1964年 ) で「フラップ」を探してみると、flannelと、flare との間に出ている。これは言葉をABC順に並べているから、当然のことでもある。が、愚かな私は、「フラップ・ポケットはフレアの効いたフランネル・スーツに似合うのか」などと思ったりもする。妄想はともかくとして。

「フラップ・ポケットはジャケットにあしらわれるうちの、ジェッテット・ポケットではないものを指す。」

そのように説明されている。「ジェッテット・ポケット」 jeted pocket はいわゆる「両玉縁」のことである。つまりフラップなしのポケット。ディナー・ジャケットにはまず例外なく、ジェッテット・ポケットが添えられる。
それはさておき、紳士服におけるフラップ・ポケットはいつ頃からはじまっているのか。

「家の鍵をは私の上着の左側のポケットに入っている。」

英国の劇作家、ウイリアム・ロウリー作『深夜の試合』 (1633年 ) には、そのような一節が出ている。この「ポケット」は、フラップがあったのか、なかったのか。おそらくはフラップはなかったと思われる。
男の服にフラップ・ポケットが添えられるのは、1690年頃のことと考えられているからだ。つまり、まずポケットがあり、やがてそこにフラップが付くようになったのである。
1700年頃のフロックは膝丈のスタイルとなる。このフロックこそ当時の日常着であった。袖口には大型の折返しが付いた。この大型のカフとバランスをとるかのように、大型のフラップ・ポケットがあしらわれたものである。今日のフラップ・ポケットの元祖は、このフロックの装飾にはじまっている。

「二年くらい前から、私はスカラップ・フラップのポケットをつけるようにしている。」

これは1712年『スペクテイター』誌の記事の一節。「スカラップ・フラップ」とは、フラップの下端が三ヶ所尖ったデザインのものである。この文章を書いたのは、サー・リチャード・スティールではなかったかと思われる。それというのまスティールは1713年の『ザ・ガーディアン」誌にも、次のように書いているからだ。

「スカラップ・ポケットにも実に様々なスタイルがあるものだ。」

ここでの「スカラップ・ポケット」が、広くはフラップ・ポケットの一種であるのは、言うまでもない。と同時に、十八世紀のはじめに、大仰な、装飾的なフラップ・ポケットが流行ったことが窺えるであろう。つまり今のフラップ・ポケットは主として、飾りなのであって、中に物を入れるのはあくまでも付録であったことも解るのだ。ここから少し話は飛ぶのだが。

「ジャケットにおけるスランティング・ポケットは、それがいかなる角度であろうとも、上着のシェイプを明確に表現する効果をもっている。」

『ファッションのABC』 ( 前掲書 ) にはそのように、説明されている。広くフラップ・ポケットのみならず、「スラント・ポケット」にあっても、機能だけでなくデザイン性が重視されるようである。

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