清張で、作家で。もちろん、松本清張ですよね。
清張。ふつう「せいちょう」と訓む。でも、本名は「きよはる」なんだそうです。はじめの頃は編集者も「きよはる」だったという。それがいつの間にか、「せいちょう」に。
松本清張が推理作家として知られるようなったのは、『点と線』から。どうして『点と線』なのか。
これは当時あった旅行雑誌『旅』からの注文だったから。なにか旅にちなんだ物語がよいかと。『点と線』は、その時代の東京駅での一瞬の隙間が鍵になっています。名作ですよね。
松本清張の推理小説のひとつに、『アムステルダム運河殺人事件』があります。これは昭和四十四年『週刊朝日カラー別冊』に掲載されたもの。余談ですが。松本清張は作家になる前、朝日新聞社の社員だったことがあります。
『アムステルダム運河殺人事件』は、実際に起きた事件をヒントにした小説。それは昭和四十年八月二十五日。ブリュッセル駐在の日本人が殺害された事件。清張はこれを伝える記事から想を得たという。この中に。
「ベルケムは白髪に赭ら顏のたくましい体格だが、服装に気をつかうなかなかの伊達男だった。」
これは事件を担当する鬼警部の様子。アムステルダムが出てくる小説に、『未亡人の一年』が。ジョン・アーヴィングが、1998年に発表した物語。
「ルースの黒いTシャツは高価なものだった。とてもよく似合っていた。なにか絹のような綿より高級なー 素材だとエディは思った。」
ルースは人気作家という設定なんですね。
シルクのTシャツは、憧れの的。絹のTシャツで、清張の初版本を探しに行くのは、夢物語ですが……。