こよりと洒落者

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こよりは漢字で、紙縒と書くんだそうですね。紙を縒って仕上げるから、紙縒。
紙縒は、強い。手で引きちぎることはできません。和紙だから、強い。その意味で紙縒もまた、日本ならではの、ものでしょうね。
昔は紙を束ねるにも、紙縒を使ったものです。紙を重ねて、穴を開け、この穴に紙縒を通して、閉じた。細長い和紙さえあれば、紙縒はすぐにできます。
紙だけでなく、髪にも。髷を結うときに。一度束ねて、紙縒で結んでおく。ただしこの場合には、元結。元結は今でも芸者さんの日本髪やお相撲さんの髷に使っているんでしょうね。
もっとも江戸庶民の発音としては、「もっとい」 ( 元結 ) と言ったんだそうですが。
紙縒をうんと立派にしたものが、水引。贈物などの仕上げに飾る、水引。あれは紙縒を強く、美しく仕上げたもの。水引も広くは紙縒の仲間と言って良いでしょう。
紙縒を毎日のように使った人に、澁澤龍彦がいます。澁澤龍彦はパイプ党で、パイプを掃除するのに、紙縒を。澁澤家に代々伝わる和紙の金銭出納帳を使って、紙縒にして。
ところで澁澤龍彦のパイプ趣味はコクトオと関係しているのではないでしょうか。それというのも。

「金色をしたパイプ煙草の香とともに、彼はイギリスという国の詩情 ( ポエジー ) を嗅いでいたのである。」

ジャン・コクトオ著『大胯びらき』の一文。訳は、澁澤龍彦。
「彼」とあるのは、パリに住むイギリス人の、ピーター・ストップウエルのこと。
コクトオの『大胯びらき』を澁澤龍彦が翻訳したのは、二十五歳の時。このピーター・ストップウエルの話から、澁澤龍彦がパイプに興味を持ったのかも知れませんね。『大胯びらき』には、こんな描写も。

「イギリスの男はみんな軍人のようにエレガンスを持っている、しかるにフランス的なエレガンスというのは、みんなが持っていないものを一人一人が備えているいるというところにあって、そこが優れているのだ、と。」

これはジャックというフランス人の言葉。要するに、フランスの洒落者と、イギリスの洒落者とは、少し違うと言いたいのでしょうね。
洒落者は今でも、こよりでパイプの掃除をしているんでしょうか。

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