雪國とサテン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

雪國という小説がありますよね。
もちろん、川端康成の名作。川端康成へのノーベル文学賞は、『雪國』が対象だったとの説があります。
川端康成にとっても、代表作。いや、日本語で書かれた近代の物語として、最高傑作だと思われます。そもそもそも『雪國』の書き出しからして、創造的。

「国境のトンネルを抜けると、窓の外の夜の底が白くなつた。」

この一行で読者は物語の向こう側に入って行くわけです。この「国境」をなんと訓むのか。「こっきょう」なのか、「くにざかい」なのか。それで文学上の論争がはじまるのですから、名作というものでしょう。
それである文士が直接ご本人に訊ねた。川端康成は、言った。「くにざかいです」と。
川端康成が『雪國』の主人公と、やや近い体験はあったかも知れません。でも、最初からこれほど建築的な長篇を書くつもりではなかったようです。はじめ、短篇として発表されています。それが殊の外好評で、後を続けることに。川端康成は、どこからどこまでも、繊細な抒情家だったことが解ります。
『雪國』が単行本として出たのが、1937年。
1937年、アメリカで発表されたミステリに、『碧い玉』があります。レイモンド・チャンドラー。1937年、『ダイム・ディテクティヴ・マンスリー』に、掲載。この中に。

「襟に紫色の繻子のスカーフを巻いて白いフラノの服を着る………」

これは、リンドレイ・ボールという人物の着こなし。おそらくが、サテンのスカーフなんでしょう。
サテンは中世のヴェニスで生まれた布地だと考えられています。ろうそくの光を受けて美しい生地でもあります。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone