マーク・クロスという鞄が昔ありましたね。鞄だけでなく、ネクタイなどの洋品をも扱っていたような記憶があります。
「マーク・クロス」Mark Cross は1845年にはじまっているんだそうです。英国人のヘンリー・クロスによって。ヘンリー・クロスはもともとロンドンの馬具商だったという。そのヘンリー・クロスがアメリカ、ボストンに移って開いたのが、「マーク・クロス」。馬具屋から鞄屋という例は多いですね。
「マーク・クロス」がボストンからニューヨークに移るのは、十九世紀末のこと。1968年からは店も大きくなって、五番街に出る。この五番街のマーク・クロスに偶然に入ったのが、常盤新平。そこで好みの鞄を見つけて長く愛用したそうです。常盤新平はマーク・クロスの鞄についての随筆も書いています。
マーク・クロスの二代目の社長が、パトリック・マーフィー。そして、四代目の社長が、ジェラルド・マーフィー。ジェラルド・マーフィーをモデルに書いた小説が、『夜はやさし』だと言われています。フィッツジェラルドが1934年に書いた物語。
同じく1934年に発表されたのが、『謎のエヴァンス』。もちろんアガサ・クリスティのミステリ。この中に。
「素晴らしい仕立てのモーニングに縞ズボンをはき、マーチントン卿の姿見に写った自分をながめまわしていた。」
これはロバート・ジョーンズという青年の様子。たしかにモーニング・コートは仕立て方ひとつで大きく変わるものですよね。