カレーシュとフロック

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カレーシュは、香水の名前ですよね。エルメスの。「カレーシュ」 Caleche。もちろんフランス語ですからはじめの「e」の上にアクサンティギュが添えられるのですが。
「カレーシュ」は、エルメスにとってははじめてのご婦人用のパルファン。というのは、それ以前には紳士用の香水を専らとしていたのですから。カレーシュは、ジャスミン、イリス、ローズなどをふんだんに閉じこめたい、繊細、優美な薫りを持っています。
「カレーシュ」はもともと四輪馬車のことで、故き佳き時代に、馬具を得意としたエルメスには、うってつけの名前でもあったでしょうね。
カレーシュは、二人乗りの四輪馬車。十九世紀以前には、カレーシュを持ち、カレーシュに乗ることは豪奢の極みだったのです。二人乗りですから、速い。スピードを出すことができた。しかも充分にクッションを効かせた、乗り心地の良い馬車でもあったのです。さらにには幌付きで、この幌は畳むことができた。気持の良い季節には、オープンで馬車を走らせることもできた。
昔、巴里の貴婦人の間で、「カレーシュ」という頭巾が流行ったことがあります。これはまさに馬車のカレーシュのように、折り畳み可能のフードだったからです。
フランスでの「カレーシュ」は、1646年頃から使われている言葉のようです。が、それはドイツ語の、「カレッシュ」 Kalesche から来ているとのこと。
カレーシュの出てくる小説に、『獲物の分け前』があります。フランスの文豪、エミール・ゾラの書いた物語。この中に。

「車輪の放つ金色の光沢や稲妻のような鋭い光は、カレーシュの黄色コーチラインの上でじっと動かず、濃紺の車体パネルには…………」。

凝りに凝ったカレーシュの様子が活写されています。豪奢とはキリのないもので、カレーシュの色と、おつきの者に着せる制服とを揃えさせたりもしたのです。

「黒の装いで、フロックコートは顎までボタンを止め、すこし傾げて被った山高帽は、絹地が光っている。」

これは、馬車の中の、ナポレオン三世の姿。ナポレオン三世の馬車は、ランドー。やや大型の四輪馬車。
馬車はともかく、一度、フロックを着こなしてみたいものですね。

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