絵師は、イラストレイターでもあるでしょうね。絵師から作家になった例は、それほど多くはないかも知れませんが。
例として挙げていいのか、どうか。英国の絵師、オーブリー・ビアズリー。オーブリー・ビアズリーは小説、『美神の館』を書いています。でも、絵筆を捨てて文筆家になったわけではありませんが。
しかし。絵師転じて作家という例がないではありません。レン・デイトン。本名、レオナード・シリル・デイトン。1929年、ロンドン生まれ。スパイ物を書かせたなら、天下一品ですよね。
レン・デイトンの職種も多彩であります。学校を出てからまず、英国空軍に。その後、写真家になったかと思うと。賭屋になったり、サーカスの芸人になったりも。それからは「セント・マーティン」で、絵の勉強を。「セント・マーティン」の後、アメリカ、NYに。NYで、職業絵師に。絵師ののちはロンドンに帰って、アート・ディレクターになっています。
アート・ディレクターを辞めた後、ミステリ作家に。レン・デイトンの略歴をごく簡単に言いますと、こういうことになるのですが。1960年頃、フランスのドルドーニュに行って、執筆を。これが第一作の、『イプクレス・ファイル』として実を結ぶわけですね。
ドルドーニュで書きはじめたものの、費用が底をついて、一度ロンドンに戻って、広告の仕事を手伝ったりもしたしたそうですが。
『イプクレス・ファイル』を読んでいると。
『上等のブレザーを着て、白いシャツにソフト・カラー、無地の濃いえんじのネクタイをしめている。袖口にはカフス・ボタンがにぶい本ものの金の輝きを見せ、ハンカチがつつましくのぞいている。」
これは、ペインターという医師の着こなし。「ペインター」でも絵師ではありませんが。
たぶん、ブレイザーにダブル・カフのシャツを着ているのでしょうね。
医師の袖口はどうあるべきか。絵師の袖口はどうあるべきか。洒落者の袖口はどうあるべきか。まあ、ゆっくりと考えてみるとしましょうか。