ブランデーは、美味い酒ですよね。ブランデーをひとくち含むとなぜかショコラが欲しくなってきます。
ショコラとブランデー、実にそのう、相性がよろしい。ブランデーと相性のよろしいものがもうひとつあって、カステラ。カステラを食べたい分だけ切りまして。これを皿の上に静かに寝かせて。その上に適量のブランデーをふりかける。その後に、姫フォークでいただく。これはもう、息が止まるほど美味しいものであります。
ブランデーはただ美味しいだけでなく、むかしは気付薬でもあったらしい。十九世紀の淑女はしばしば卒倒した。レディーが卒倒した時、どうするのか。まあ、いろんな方法があったでしょう。が、そのなかにブランデーが。倒れた貴婦人に、ブランデーを飲ませて、元気にさせたんだそうですね。
十九世紀の貴婦人はどうして卒倒したのか。ひと口に言って、コルセットがきつかったからであります。コルセットとブランデーもまんざら無関係でないのです。
ブランデーはフランスのコニャック地方が有名ですよね。その昔、コニャック地方に滞在した英国人が、「ヴァン・ブリュレ」と呼んだのが、ブランデーのはじまりなんだ。これは「焼いたワイン」の意味。
「ヴァン・ブリュレ」を耳で聞いたオランダ人が、「ブランデー・ウエイン」と言って広めたので、「ブランデー」の言葉が生まれたと、伝えられています。
ブランデーが出てくるミステリに、『雲なす証言』があります。1926年に、ドロシー・L・セイヤーズが発表した物語。
「ブランデーを少々召しあがったほうがよろしいかと存じます」
これは召使いのバンターが、レディ・メアリに対しての科白。『雲なす証言』には、こんな描写も。
「 ピーター卿は古びたノーフォーク・スーツと地味な縁取りの長靴下、つばを引き下げた古めかしい帽子、そしてがっちりとした靴という身形に………………」。
もちろん、貴族探偵の、ピーター・ウイムジーの着こなしであります。「がっちりとした靴」は、たぶんブローグでしょうね。ブローグは古い時代のスコットランドにはじまる靴。
ブローグに限らず、靴をスコッチ・ウイスキーで磨く人がいます。ワックスを延ばす時、一滴のウイスキーを加えて。時と場合によっては、一滴のブランデーでも。ことにフランスの靴などは……………。