美食は、美味なる食事ということなのでしょう。美味なる食事を専門とするお方のことを、美食家。具体的な一例を挙げますと、谷崎潤一郎がいます。
谷崎潤一郎は随筆の中でもずいぶんと美食について語っていますから、間違いなく美食家であったでしょう。
いや、谷崎潤一郎は美食小説さえ書いています。『美食倶楽部』がそれです。ただし谷崎潤一郎のことですから、最後に奇妙な味付けがなされているのですが。
奇妙な味付けといって思い起こす作家に、ポオがいます。もちろん、エドガー・アラン・ポオのこと。ポオが実際に、どんな風に美食家であったかは知りません。ただし「美酒家」ではあったようですが。
このポオにも美食小説があります。『ボン=ボン』がそれです。『ボン=ボン』は、1832年「サタデー・クーリア」12月1日号に発表された短篇。場所は、フランスのルーアンで、ここにピエール・ボン=ボンなる天才料理人がいる、との設定になっています。
「彼のオムレツには値がつけられない………………」。
などとはじまって。とにかく『ボン=ボン』が美食小説でもあるのは、その通りでしょう。
ポオには数多くの短篇があります。その中のひとつに、『群衆の人』が。『群衆の人』は、1840年「バートンズ・ジェントルマンズ・マガジン」12月号に掲載された小説。この中に。
「服装こそ千差万別で、ビロードのチョッキ、派手なネッカチーフ………………」。
と、あります。ワイン色のヴェルヴェットのウエイストコート。いいですね。
さて、ビロードのチョッキで、美食を探しに行くといたしましょうか。