フルートの音色は、聴く人の心を洗う妙音ですよね。でも、フルートなのか、フリュートなのか。
f l ut e と書くわけですから、フルートでもフリュートでも、いずれも間違いではないのでしょう。これはちょっとブルーにも似ているかも知れません。b l u e 。ブルーでもあり、ブリューでもあります。
フルートがお好きだったお方に、幸田露伴がいます。幸田露伴の、本格的第一作といってよいものに、「露團々』があります。明治二十一年の発表。露伴、二十一歳の時。名作。露伴は、明治元年のお生まれですから、年をすばやく数えることができます。
ところで、「露伴」の号は二十歳のとき、自分でつけたもの。成行は十八で、北海道の余市へ。「成行」は露伴の本名。でも、余市での通信員の仕事が辛くて。明治二十年の八月、脱出。このとき、徒歩と列車で。その時の一句。
里遠し いざ露と寝ん 草枕
ここから、「露伴」の名前にしたんだそうですね。
「一少年の緑陰に坐し、ふりゆとを弄せる其の声嚠喨として妙なりしが…………………。」
『露團々』の一節に、そのように出ています。『露團々』は、父に無断で書いた本。露伴はそれがもとで、お父さんにこっぴどく叱られています。その時代の作家は、上品ならざる仕事と考えられていたので。
でも、『露團々』売れに売れて。出版社の「金港堂」から、五十円を。明治二十一年の五十円、今のいくらくらいなんでしょうか。
露伴と同じようにフルートに関心があったのが、ロレンス。作家の、D・H・ロレンス。『アロンの杖』には、繰り返しフルートの話が出てきます。ロレンスとしては、なにかの象徴と考えていたフシがあるのですが。
ロレンスの長篇に、『恋する女たち』があるのは、ご存じの通り。この中に。
「そこへジェラルドがやってきた。白い服に黒と茶のブレイザーをつけて………………………」。
小川和夫訳では、「ブレイザー 」になっています。これはおそらく、ストライプ柄の、ブレイザー なのでしょう。
なにかブレイザー を羽織って、フルートの演奏を聴きに行きたいものですが。