パナマで、おしゃれ用品でといえば、パナマ・ハットでしょうか。
パナマ・ハットとまでいわなくても、「パナマ」だけでも通じることがあります。それくらいにパナマとパナマ帽は深く、結びついているのでしょう。
でも、パナマ帽がパナマで作られることはありません。これまでに一度もパナマでパナマ・ハットが生産されたことはないのです。
では、どうして「パナマ・ハット」なのか。パナマ港から積み出された帽子の意味だったのです。
実際の生産地は、エクアドル。パナマ・ハットは事実上、エクアドルでしか作ることが出来ない。なぜか。パナマ・ハットの原料となる「パナマソウ」が、エクアドルでしか育たないから。
一時、「パナマソウウ」を移植したこともあるらしい。でも、結局は成功しなかったようですね。
「やはり野におけ蓮華草」は、パナマソウにもあてはまるのでしょうか。
移植が難しいものに、糸芭蕉があります。糸芭蕉から、「芭蕉布」が生まれること、いうまでもありません。
糸芭蕉は、沖縄。むかしの琉球。少なくとも五百年以上の歴史を持っています。
でも、沖縄ならどこでも良いのか。そうではありません。沖縄の、大宜味村の糸芭蕉が、芭蕉布には最適だと考えられています。人間がいかに利口になったも、大自然の、大宇宙の法則には敵わないのでしょう。
勝手に私は、糸芭蕉の繊維で、風通しの良い、軽い、丈夫な帽子が作れると、考えています。パナマ・ハットならぬ「バショウ・ハット」でしょうか。
上質のパナマ帽は、一生物。同じく「バショウ帽」も一生物です。つまり、それくらい丈夫な繊維なのですね。
パナマソウも、糸芭蕉も、その繊維は、強い。両手の力で切ろうなどと、考えないで下さい。手のほうが切れてしまいますから。
いずれにしても、パナマソウと、糸芭蕉との間には、不思議な関連性があるものと思われます。
パナマが出てくるミステリに、『死者にかかってきた電話』があります。ジョン・ル・カレが、1961年に発表した物語。
ジョン・ル・カレの本名は、デイヴィッド・コーンウエル。1961年には、まだ現役の秘密諜報部員だったのです。本名でスパイ小説を書くわけにはいかなかったのですね。
「警視庁には、パナマ関係の刑事がひとりおいてありますから、この調査は簡単にできます。」
まあ、当然、そういうこともあるでしょう。
また、『死者にかかってきた電話』には、こんな描写も。
「あかるいグレーの服に純白のワイシャツ、銀色のネクタイをしめて ー 外交官といった身なりだった。」
「外交官」。デイヴィッド・コーンウエルは、在職中、数多くの「外交官」に出会っているに違いありません。
これは、パール・グレイのスーツに、シルヴァー・グレイのタイを結んでいるのでしょう。
パール・グレイは、男の服の中で、もっとも位の高い色だと言えるでしょう。もちろん最上級のパナマ帽がよく似合います。