エッグは、卵のことですよね。
でも、「卵」なのか、「玉子」なのか。
あの白い殻の中に入っている状態が、卵。殻から一歩前に、お出になった姿が、「玉子」。私は勝手にそんなふうに思いこんでいるのですが。
卵があると作りたくなるのが、オムレツ。どんなに食欲がない時でも、プレイン・オムレツが出てくると、涎がわいてくるものですよね。
オムレツと題につく本に、『巴里の空の下オムレツの匂いは流れる』があります。
昭和三十八年に、石井好子が書いた随筆集。『巴里の空の下オムレツの匂いは流れる』は、
当時ベストセラーになり、またロングセラーにもなった一書であります。
石井好子はシャンソン歌手で。そのシャンソン歌手の石井好子に、「食」の随筆を書かせたのが、花森安治だったのです。
その時代の『暮しの手帖』に連載されて、好評。題字も、挿絵も、装幀も、花森安治だったのは、そんな事情によるものであります。
「……私はこどものころから卵料理が好きだったが、そのときのマダムのオムレツが、特別おいしいと思った。」
石井好子は、そんなふうに書いています。
戦後間もなくパリに下宿した時のオムレツを想い出して。
○バターをたっぷり
○火加減強め
○手早く混ぜる
石井好子はこれらの五つの条件を挙げて、どうしてパリの下宿のオムレツがそれほどに美味しかったかを、分析しています。
石井好子は、シャンソン歌手で。『あとがき』には、シャンソンの話も出てきます。
「古いシャンソンに、『ラ・クイジーヌ』というのがあってね」と。その歌詞の最後に。
🎶 ダンナさまを家につなぎとめるのは、おいしい料理だけだから…………………。
若い奥さんはおしゃれに夢中になるけれど、ある年齢になったら、お料理よと、そのシャンソンは教えているのでしょうね。
たしかに卵は食べて美味しいのでありますが。「卵色」の形容も忘れてはなりません。
「………肌着に隠し緋むく、上には卵色の縮緬に思ひ入れの数紋……………………。」
天和二年に、井原西鶴が書いた『好色一代男』の一節にも、そのように出ています。今から三百十年ほど前の、凝り凝った衣裳について。
ここでの「隠し緋」とは、着物の仕立が、裏表なしになっていることの形容なんだそうです。
卵色はなにも日本だけのことではなくて。イギリスにも、「エッグシェル・ホワイト」の言い方があります。たとえばレイン・コートの表現などに、「エッグシェル・ホワイト」と使う場合があるのですが。
卵が出てくる小説に、『スパイたちの夏』があります。英国人の、マイケル・フレインが、
2002年に発表した物語。ただし時代背景は、1940年代、戦時中に置かれたいるのですが。
「………チーズビスケットと乾燥卵の箱をそれぞれーつ取り出す。」
イギリスでの戦時中には、「乾燥卵」という代物があったのでしょうね。また、『スパイたちの夏』には、こんな描写も出てきます。
「ベルトは、旧式のカンカン帽のハットバンドのような縞模様が付いたもので、S字形にくねった金属の蛇型バックルで留めるようになっている。」
この説明の少し前に。
「ゴム入り生地のベルト」と述べられています。
たぶん、エラスティック・ベルトになっているのでしょう。ゴムベルト。ゴム紐を編んで仕上げたベルト。
昔、フランス製の「レイグロン」という銘柄の、エラスティック・ベルトがありました。長く使っていても、決して緩むことのないベルトだったことを覚えています。そのかわり目の玉が飛び出しほどの値段だったのですが。
どなたか長く使えるエラスティック・ベルトを作って頂けませんでしょうか。