バザーロフは、人の名前ですよね。ロシアに多い名前という印象があるのですが。
ひとつの例ではありますが。ロシアの作家、ツルゲーネフの『父と子』にも、バザーロフが登場します。
ツルゲーネフの『父と子』は、1860年の9月に書きはじめられて、1861の7月に完成した長篇。ツルゲーネフ、四十三歳の時のことであります。
イヴァン・ツルゲーネフは、1818年11月9日。ロシアのオリョールにて誕生。これをアメリカに移してみますと、「ブルックス・ブラザーズ」の誕生期ということになるのですが。
「 ー エヴゲーニィ・ヴァシーリッチですが ー とバザーロフが、もうげな、しかし男らしい声で答え……………………。」
そんなふうに物事のはじめに自己紹介する場面があります。「パザーロフ」は若い医学生という設定になっています。
この時の時代背景は、1859年5月20日に置かれています。バザーロフが宿に着いたところから物語がはじまるわけです。
バザーロフは自己紹介の後、どうするのか。
「………オーバァのえりを折りかえして、ニコライ・ペドローヴィッチにすっかり顔を出してみせた。」
この表現からの類推ですが。バザーロフが着ているのは、旅行用のグレイト・コートだろうと思われます。「大外套」。多くはダブル前で、踝までの長さ。ロシアの冬の馬での旅にも耐えられる外套だったのです。襟も大きいので、すべてを立てると顔まで隠れてしまったのでしょう。
バザーロフが出てくる小説に、『鸚哥とクリスマス』があります。曽野綾子が、昭和二十ハ年『三田文学』十二月号に発表した短篇。
「私は未だ数えで十三にしかならなかったけれど、ツルゲーネフの小説に出てくるバザーロフという虚無的な青年を好きになっていたので……………………。」
十二歳で、ツルゲーネフの『父と子』を読む少女。かなり早熟ですね。たぶん曽野綾子自身が投影されているのでしょう。
曽野綾子が二十二歳の時に書いた『鸚哥とクリスマス』には、こんな描写も出てきます。
「………彼女はコロコロにパッディングの入った猫背の肩に、純日本的なしなをつくって……………………。」
『鸚哥とクリスマス』の時代背景は、1950年頃のことかと思われるのですが。厚い肩パッドが流行ったものです。理由があろうとなかろうと、とにかく肩パッドを入れるのが、流行だったのです。
もう少し正確に申しますと、当時の日本人の言い方としては、「パット」だったのですが。
上着にも「パット」、外套にも「パット」。それらを重ねると、収拾がつかないこともあったのですが。
人間、誰しも左右の肩が均一ということはありません。それを調整するのが、ショルダー・パッドの主な役目なのです。
どなたか肩線の美しい外套を仕立てて頂けませんでしょうか。