スプリング・コートとスキー帽

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スプリング・コートは、春外套のことですよね。春に着る、軽いコートなので、春外套。
つまり、防寒を目的にはしていない外套のことなのでしょう。
これに対してはっきりと保温を狙いとした外套に、「グレイト・コート」があります。時に、「大外套」などと呼ばれることがあるのは、ご存じでしょう。
グレイト・コートはまず第一に、地質が分厚く、着丈もうんと長いのが特徴です。

「派手な薄色格子縞の春服を着た、額の禿げた四十四五の男が眼を上げた。
 即ち喜多川伯爵である。」

明治三十六年に、徳冨蘆花が発表した『黑潮』の一節です。
徳冨蘆花は、「春服」と書いて、「スプリングコート」のルビを振ってあります。少なくとも明治三十六年には、「スプリング・コート」の言い方があったのでしょう。

「………要は薄い春外套の袂の外へこぼれてゐる黑八丈の羽織の生地が……………………。」

昭和四年に、谷崎潤一郎が書いた『蓼喰ふ蟲』に、そのような一節があります。ここから単純に想像いたしますと。まず「スプリング・コート」があって、それから「春外套」」の言い方が生まれたのでしょうか。

スプリング・コートが出てくるミステリに、『孤独な殺人者』があります。1995年に、
ロシアの作家、アレクサンドラ・マリーニナが発表した物語。

「何千人ものモスクワっ子が着ている、一目を惹かない薄茶色のスプリングコートのアルチョムは……………………。」

これは暗黒街のボス、アルチョム・レズニコフの着こなしとして。
『孤独な殺人者』を読んでいますと、こんな描写も出てきます。

「………鳥打帽ではなくて毛糸のスキー帽を、窪んだこめかみをぴったりと覆うように目深にかぶっていた。」

スキーには、スキー帽が最適。なぜなら、かぶり方によっては、耳まで包めるから。耳を温かくしてくれるのです。
スキー帽はなにもロシアばかりでなく、日本でも。

「厚く着ぶくれ、スキーにでもかぶるやうな毛絲帽子を耳まで引つかぶつた彼の様子は……………………。」

宮本百合子が、大正十三年に書いた小説『伸子』にも、スキー帽らしきものが出てきます。
スキー帽は、ウールに限ります。温かいし、頭に乗せておいて、滑らないからです。
どなたか量感のあるスキー帽を編んで頂けませんでしょうか。

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