定食とテイラー

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定食は、決められた一式の食事のことですよね。。「刺身定食」というではありませんか。「焼魚定食」というではありませんか。
主にこれらの定食を出すのが、「定食屋」とことになっているのは、いうまでもないでしょう。
「定食」は明治の頃にもあったらしい。

「が、贅沢の骨頂の如く思われた西洋料理の当時の定食は驚く勿れ唯った五十銭で、料理が七品にサラダを切子の大どんぶりへ盛って出しデザートの菓子から口漱ぎの水まで出して今の三円以上の定食よりも御馳走があった」

内田魯庵が、大正十五年に発表した随筆『読書放浪』に、そのように書いてあります。これは明治十五年頃の思い出として。
また、『読書放浪』には、明治はじめの「唐物屋」の話も出てきます。唐物屋は、今の舶来洋品店のことです。

「………毛糸のショールやジャケツも少数欧酔者流の間には早くから知られていても………」

ここでの「ジャケツ」は、今のスェーターのこと。
これは当時の「伊勢与」にふれての文章の中で。日本ではじめて「毛糸」を扱ったのは、明石町の「伊勢与」だった、と。
伊勢与のなごりは、今でも銀座にあります。高級子供服の「サエグサ」が、それなのですね。

定食が出てくるミステリに、『美しき罠』があります。1953年に、アメリカの作家、ビル・S・バリンジャーが発表した物語。

「名のない店で、正面には〈美味しいスパゲッティ〉とのみ書かれた簡単な看板が掲げられていた。」

これは当時ニュウヨークにあったイタリア料理の定食屋。スパゲッティにサラダとガーリックバターのパンがついて、35セントだったとも書いています。さらに10セント出すと、赤ワインがついてきたとも。

バリンジャーの『美しき罠』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。

「ほかのすべての服と同じように、リヴォルバーを装備しても邪魔にならぬよう仕立ててある。」

物語の主人公、エメット・ラファティはマンハッタンの刑事。私服でも銃を持つことがあるのでしょう。
そして胸に銃を吊ったとしても、それが目立たない仕立てになっているわけですね。
テイラーの仕事は本来、そうあるべきなのでしょう。
少なくともテイラリングが、我われが思っているほど簡単なことではないようですね。
どなたか内ポケットにキャラメルを入れても表に響かない上着を仕立てて頂けませんでしょうか。

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