ビールとビショップ・スリーヴ

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ビールは、麦酒のことですよね。麦を原料に造る酒なので、「麦酒」。英語なら「ビア」beerでしょうか。ビアホールと言うではありませんか。
ビールもまたそれを飲む環境によって味が左右されるところがあるようです。もしも近くに小高い丘があったとすれば、丘に登ってみる。それなりの工夫をして、ビールを持参。それで、ビールを。何はなくとも旨いものであります。
しかし人には人の好みがありまして。

「旅の楽しみのひとつは駅前の大衆食堂で飲む一本のビールではないか。」

川本三郎著『東京暮らし』に、そのように書いてあります。
川本三郎はその昔、九州を旅したことがあるんだそうです。同じく作家の、種村季弘と。熊本から立野へ。立野からは、「高森線」に乗り換えるつもり。その待ち時間がざっと一時間。ふと見ると、「駅前食堂」が。

「二人で昼間からビールを飲んだ。」

馬刺などをつまみに。なにしろ、熊本ですからね。ビールを飲んでいるうちに、汽車が。女将さんが、「あれに乗るんでしょ」。
二人は急ぎに急いで、やっと間に合って。席に腰を下ろしてから、気がついた。店の勘定払ってないことに。

ビールが出てくる短篇に、『警官と讃美歌』があります。オー・ヘンリーの名作。

「ビールを一杯ご馳走してくれるんなら。」

これは「ベデーリア」という女の科白として。マイクの呼びかけに対する返事なんですね。

オー・ヘンリーといえば、『最後の一葉』を思い出す人も少なくないでしょう。『最後の一葉』を読んでおりますと。

「………芸術やチコリ・サラダにビショップ・スリーヴ型のドレスの趣味が一致するのを知って………」

これは「スー」と「ジョンシー」とが、部屋をシェアすることになった理由として。ふたりとも若い女性で、画家志望と設定されています。だからこそのグリニッチ・ビレッジなのでしょう。
「ビショップ・スリーヴ」bishop sleeveは、裾拡がりの袖のこと。ゆったりと膨らむような形の。場合によって袖口で一度絞ることもあるようですが。
いずれにしても私は「ビショップ・スリーヴ」のあることを、オー・ヘンリーの『最後の一葉』で、教わった次第です。

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