葡萄は、グレイプのことですよね。ぶどうともまた、ブドウとも書くことがあります。
葡萄の實をつぶして汁にして、これを醸すとやがて葡萄酒になるわけです。つまりワインであり、ヴィーノであります。
あるワイン通の話にこんなのがあるんだとか。あるワイン通が人の家を訪ねて、葡萄の房が出された。その時のワイン通のひと言。
「私は葡萄の丸薬よりもしぼり汁のほうが好きなんですが。」
まあ、何事も好みの問題はあるのでしょうが。
葡萄を食べるとき、皮をむく人とむかない人とがいます。つまり葡萄の皮も一緒に。どうかすると種までも、かりっと。
「皮派」に言わせますと、「葡萄の皮には栄養があって」。また、種も。「歯触りがよろしい」んだとか。もっとも最近では種無し葡萄も少なくないようですが。
ワインもまた、皮も種も一緒にしぼるのですね。これは赤ワインになります。途中で皮を取り出すと、白ワインになるわけです。醸造の途中で皮を抜くと、ロゼ・ワインに。
葡萄の中での女王が、マスカット。ただしくは、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」。一説に、クレオパトラがお好きだったのが、マスカット・オブ・アレキサンドリアだったという。
マスカットが日本に伝えられたのが、明治のはじめ。急ぎ温室をこしらえて、温室の中で大切育てられたそうです。
このマスカットを改良したのが、「ネオ・マスカット」。1932年に、岡山の廣田盛正が、「甲州三尺」とかけ合わせて、成功。マスカットもネオ・マスカットも食用の葡萄。食べて美味しい葡萄が、必ずワインに向いているとは限りません。そこでワイン用の葡萄品種があるわけですね。
たとえば、「サンジョベーゼ」だとか。これはイタリア・ワインに欠かせない品種になっています。あるいはまた、「ソーヴィニオン・ブラン」。これはその昔、ボルドオで多く用いられた葡萄品種。
今、ワイン通の中には、葡萄品種を指定してワインを選ぶ人も少なくはありません。「ぼくはねえ、ピノ・ノワールが好きでしてねえ」と言った具合に。
いささかキザでもありますが。ピノ・ノワールはブルゴーニュ産のワインによく用いられる品種。
ただしピノ・ノワールは気難しい品種でもありまして。栽培には苦労するんだそうですが。
所変われば品変わるで、「テンプラニーリョ」はスペイン限定の印象があります。スペインの赤ワインには独特のコクがあるでしょう。あのコクをうまく演出してくれるのが、テンプラニーリョなのです。
葡萄が出てくる幕末の記録に、『オランダ商人見聞録』があります。C・T・アッセンデルフト・デ・コーニングは、1881年8月7日に、長崎に着いています。そのコーニングが1879年に発表した日本での記録が、『オランダ商人見聞録』なのです。
その後、コーニングは横濱へ。1859年9月4日に横濱港に。横濱には、1861年の3月まで滞在していたらしい。
「とりわけ秋にはブドウとミカンが安かった。」
コーニングはそのように述べています。当時の横濱での物価についてみ、雉は60セント、鴨が25セントだったとも書いています。その時代の横濱の値段を知る上で貴重な資料でしょう。
また、コーニングの『オランダ商人見聞録』には、こんな記述もあります。
「壮麗な宴会場で飾り紐付きの上着(肋骨服)を着たウエイターが銀の盆載せて運んでこようが、」
これは食事の時にワインが運ばれてくる様子について。
ここでの「飾り紐」は、フロッグfrog のことかと思われます。絹の組紐で作ったボタン代わりの留め具。
どなたかフロッグ付きの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。