トランクは、旅行用の鞄のことですよね。旅行鞄にもいろんな種類があるのでしょうが。大きなトランクから、軽くて下に滑車の付いている鞄まで。
昔の旅行鞄と今の旅行鞄との違い。旅の仕方が違っているのですから、そのための鞄が異なっているのも、当たり前なのでしょうね。
昔は主に船旅。今は飛行機での旅が多いので。船の旅では荷物の制限がそれほど厳しくなくて。
人がゆっくり入れそうな衣裳鞄があったりしたものです。そしてまた、大きさだけでなく、鞄の個数。十個もニ十個もの旅行鞄を、ひとつの銘柄で揃えて、従える。これが富豪の旅の誇りだったのです。第一、帽子鞄ひとつだっていくつも持ってゆくわけですから、鞄の数が多くなるのも当然だったのでしょう。
今は何事も身軽に旅するのが現代的で、それで鞄も軽く、数も少なくなっているものと思われます。
昔読んだアンデルセン童話に、『空飛ぶトランク』がありました。
「これは、ふしぎなトランクでした、かぎをおろすと、空中にとびあがるのです。男がおしてみると、トランクはそのままうきあがり、家のえんとつを通りぬけ、遠くへ遠くへと、とんでいきました。」
こんなふうにはじまる童話が、『空とぶトランク』なのです。もちろん男がトランクの中に入って。たしかに夢のある童話ですね。トランクが空を飛んでくれるのなら、飛行機に乗ることも、鞄を持つこともないのですから。
トランクが出てくるミステリに、『トゥシューズはピンクだけ』があります。1994年に、レスリー・メイヤーが発表した物語。
「今そのアルバムは、クロゼットの奥にしまいこんだトランクの底に眠っている。」
まあ、古くて大きいトランクはどうしてもそんなことになってしまうのでしょうが。
この小説の題がなぜ『トゥシューズはピンクだけ』になっているのか。それはキャロライン・ハットンというバレリーナが登場する話なので。
たしかにバレエダンサーの象徴は、トゥ・シューズでしょうからね。
バレエの世界には、「ポアント」というのがあります。爪先立ちのこと。どうしてあんな藝当ができるのか。もちろん、練習につぐ練習。そして、トゥ・シューズのおかげでもあります。
では、ポアントが先なのか、トゥ・シューズが先なのか。これはポアントの方が先なんだそうです。
1823年に、イタリアのバレリーナ、アマリア・ブリューニがはじめて舞台の上でポアント・ワークしたと伝えられています。この時にはまだ今のようなトゥ・シューズはなかったのですが。
今日のトゥ・シューズらしきものが生まれたのは、1887年頃のこと。イタリアの靴職人、サルヴァトーレ・カペジオが作ったんだとか。サルヴァトーレ・カペジオは当時、ニュウヨークの「メトロポリタン劇場」の前で靴屋を開いていて。バレリーナたちのバレエ・シューズの修理をしているうちに、トゥ・シューズを考案したんだそうです。
どなたかバレエを観に行く時のスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。