テリー(terry)

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母の感触

テリーは、タオル地のことである。テリーによる生地であるから、テリー・クロスとも。また広くは、パイル地でもある。テリーは木綿であることが多く、「コットン・パイル」とも呼ばれる。

テリーは繊維の構造としては、輪奈織物。タオル地をよく見ると、その先端がループ (輪奈) になっている。この輪奈こそテリーの特徴。ループであることは、糸量が多い。そして表面積が広い。このループ構造は、水分をよく吸収し、よく発散する。それでタオルなどにも向くわけである。

テリー terry はフランス語の 「ティレ」 tire から来ているという。ティレは「引っ張る」の意味であった。生地の表面が引っ張られたように思えたからだろうか。

一方、タオル towel は、古代英語の 「トイル」toaille と関係があるらしい。これは「洗う」の意味があったらしい。

「綿織物の一。生地の表面に経糸で以て輪奈を作ったものである。手拭き用のほか、湯上がり・肌着・寝衣・子供のエプロン地などに使われる。」

被服文化協会編『被服文化大辞典』 (1953年刊 ) では、「タオル地」をそのように説明している。『被服文化大辞典』は綿密な書ではあるが、「テリー」の項目は見当たらない。昭和二十年代の日本では「テリー」はまだ一般的でなかったろうと思われる。

今日のタオルの源は、十七世紀のトルコにはじまるとの説がある。トルコ北西部の町、ブルサにおいて。十七世紀、トルコのタオルはいったいどのようなものであったのか。これは想像するしかない。が、今なお、「ターキッシュ・タオル」の言葉が使われる。これは毳の長い、しっかりしたタオルのことである。あるいは十七世紀のトルコで、すでにテリーのタオルが登場していたのかも知れない。

英国でのテリーは、十八世紀にはあったらしい。ただしその時代には主にシルク素材でのテリーであったという。

「その新しい帽子はヴェルヴェットやウーステッドによるテリー・ヴェルヴェットで作られていた。」

1835年『レディ・キャビネット』誌1月号の記事の一文。『テリー・ヴェルヴェット」の表現に注目したい。テリーはたしかに輪奈織物である。が、輪奈を切り開くと、ヴェルヴェットに似た表面感になる。それはともかく、十九世紀はじめ、シルクやウールのテリーがあったものと思われる。

「ジョセフ・バンチなる人物が、テリーおよびパイル・カーペットにプリントする方法を考案。1850年9月28日に特許を得ている。」

1851年『マーチャント・マガジン』4月5日号の一文である。プリントの特許はさておくとして、テリーがカーペットにも使われていたことが窺えるだろう。

「テリーはヘヴィ・シルクやウーステッドで織られる生地のことで、多く室内装飾用として使われる。」

1879年『ウエブスター英語辞典』の解説文。室内装飾とは、椅子張りの生地などにも使われたのであろう。

「テリーの、ホワイト・ターキッシュ・タオル」

1895年『モンゴメリー・ワード』春夏号のカタログの一節である。もしこれをコットン・テリーと想像するなら、十九世紀末に絹から木綿に変化したものかも知れない。シルクからコットンになることで、タオルとしても使いやすくなったのであろう。

「海水パンツをはき、ビーチサンダルに白いタオル地のバスローブをきたレヴリイが……」

レイモンド・チャンドラー著『湖中の女』 (1943年刊) に出てくる一節。原文には「テリー」とある。

テリーといえば今はタオル。これほど身近なマテリアルも少なくのではないか。テリーの幅を拡げる上でも、もっと関心が持たれて良い生地である。

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