舌平目は、ソールのことですよね。sole と書いて「ソール」と訓みます。
たとえば舌平目のムニエル、美味しいものです。
ことにドーヴァー・ソールは有名でしょう。ドーヴァー海峡で採れる舌平目。ドーヴァー海峡は水温が低く、流れが激しいので。
映画監督のヒッチコックは、ドーヴァー・ソールがお好みで、わざわざ空輸させていたんだそうですね。
「ソール」の語源は、古代ロオマのサンダル、「ソレア」sorea から来ているんだとか。古代ロオマのサンダル「ソレア」に形が似ているので。
フランス語でも舌平目は同じく「ソール」。でも、やや「ソル」にも近い発音でしょうか。
舌平目は「靴底」と同じ綴り。レザー・ソールというではありませんか。ラバー・ソールだとか。少し特別な靴底に、「ロープ・ソール」があります。「縄底」。夏の岩場で履くエスパドリーユは本来、「縄底」で作られることになっています。濡れた岩場でも滑らないように。
ソールにも食べられるソールと、食べられないソールとがあるわけです。
フランス語で、「ソール・オルディナーレ」というと、ドーヴァー・ソールの意味になります。舌平目は古代ロオマの時代から、食通の間で好まれていたという。
また、ことに舌平目がお好きだったのが、ルイ十四世だと伝えられています。
フランスの料理人に、アドルフ・デュグレレというお方がいらして。このデュグレレが、舌平目の料理を得意としたんだとか。デュグレレは、1805年にフランスnボルドオに生まれています。
1867年に「三皇帝の晩餐」が行われて。この時の料理を担当したのが、アドルフ・デュグレレ。
ロシア皇帝、アレクサンドル二世と皇太子。プロシア国王、ウイルヘルム一世と王太子。そして、宰相、ビスマルク。それで、「三皇帝の晩餐」。1867年6月7日のこと。
この時の魚料理には、「舌平目のヴェネチア風」が、提供されたとのことです。
昔、巴里に「ラ・ロシェ・ドゥ・カンカル」というレストランがあって。ここでの人気料理が、「舌平目のノルマンデイ風」。
このひと皿が大好物だったのが、作家のバルザック。足繁く通ったそうですね。
「舌平目の最大の長所は養殖ができないこと。そのため流通しているのはすべて天然ものである。平たい魚の代表として知られ、古代ローマ人はその形から〝ジュピターのサンダル〝と畏敬の念を込めて呼んでいた。」
ジョエル・ロブションの『ジョエル・ロブションのすべて』に、そのように出ています。
この『ジョエル・ロブションのすべて』は、もちろん料理本で、写真を添えてのレシピも出ています。ここにはざっと六種類の舌平目の料理が紹介されているのですが。
「舌平目のムニエル」。「舌平目のノルマンデイ風」。「舌平目のフィレ」。「舌平目のフライ」。「舌平目のブノワ風」。「舌平目のポワレ」などが。
舌平目が出てくる長篇小説に、『劇場』があります。イギリスの作家、サマセット・モオムが、1937年に発表した物語。
モオムは最初、戯曲家と成功したお方で、演劇の世界には裏も表もよく識っていたことでしょう。『劇場』には、当時の英国の演劇の世界が巧みに描かれています。
「例えば、院長としてはノルマンジーひらめが好物だったが、それを最良バターで料理してくれといってきかなかった。しかもバターは戦争このかた、たいへん高値を呼んでいるのだった。」
これはサン・マロの修道院の院長の好みとして。
また、『劇場』にはこんな描写も出てきます。
「またマイケルのはめている野猪の首のついた、「咎めなき身にそしりなし」という金言の刻んである認印つきの指環も彼女の気に入った。」
ここでの「彼女」とは、「ジュリア」という女性なのですが。
「認印つきの指環」。おそらくは「シグネット・リング」
signet ring のことかと思われます。
ふつう貴族の子弟などに似合うものです。昔はこれを実際に署名代わりにもしたものです。
どなたか極上のシグネット・リングを作って頂けませんでしょうか。