マリーナは、人の名前にもありますよね。
Mulliner と書いて「マリーナ」と訓むことが多いようですが。
たとえば、ウッドハウスのユウモア小説に、『マリーナ氏の冒険譚』があります。これは「マリーナ物」を集めた短篇集になっているのです。
ウッドハウスといえば、「ジーブス物」が有名でしょうね。でも、その一方で「マリーナ物」も書いているわけです。
ウッドハウスが「ジーブス物」に手を染めたのは、1916年、35歳の時。『ジーブスにおまかせ』がそれでありました。これが大ヒットとなって、それから続篇が書かれることになったのです。
一方、『マリーナ氏ご対面』が出たのは、1927年のことです。ウッドハウスが47歳の時のこと。
ペラム・グレンヴィル・ウッドハウスが生まれたのは、1881年10月15日のことなんだそうです。イングランド、サリー州ギルフォードのエプソン・ロードで。
1894年には、17歳でパブリック・スクールの「ダリッジ・カレッジ」に入っています。ここでの後輩に、レイモンド・チャンドラーがいたとのことです。
レイモンド・チャンドラーは1888年7月23日の生まれですから、ウッドハウスの七歳年下だった計算になるのですが。
チャンドラーとウッドハウスの共通点はマティーニでしょうか。チャンドラーもまたマティーニにはうるさくて。ウッドハウスも同じように。
「彼が自分を思う気持ちは、強めのドライ・マティーニにおけるジンに対するベルモットの割合くらいに過ぎないさ」
「ジーブス物」に、そんな科白が出てきますから。
もっとも究極のドライ・マティーニは、ジン100%ではないのか。そうも思えてくるほどなのですが。それはともかく、「ドライ・マティーニ談義」には終りがないようですね。
ドライ・マティーニは最良の食前酒。多くの紳士がそのように考えているのは、間違いないようです。
ウッドハウスの『マリーナ氏の冒険』を読んでおりますと、こんな一節が出てきます。
「ラディッシュ、焼きりんご、クリーム添え。カキフライシチュウ、蛙、アメリカン・コーヒー、純良クリーム、アメリカン・バター、フライドチキン、南部スタイル。ポーターハウス・ステーキ。サラトガ・ポテト、網焼きチキン、アメリカン・スタイル。」
まだまだ、えんえんと続くのですが。これは物語の主人公が、マーク・トゥエインの『赤毛布外遊記』を読みあげている場面として。
そのうちにとうとう我慢できなくなって、ベッドから跳ね起きてしまうのですが。
ここに出てくる「サラトガ・ポテト」は、日本でいうところのポテト・チップスであるのは、言うまでもないでしょう。
P・G・ウッドハウスはアメリカ料理に興味を持っていたのでしょうか。二十世紀のはじめから、ウッドハウスは何度もアメリカに旅しています。
1947年、66歳のウッドハウスはニュウヨークに渡り、以来、ニュウヨークを自宅としているのです。
マリーナが出てくる小説に、『浜辺』があります。イタリアの作家、チェザーレ・パヴェーゼが、1942年に発表した物語。
「そこにいるのはロジーナかい、それともマリーナかい? 」
また、チェザーレ・パヴェーゼが、1947年に発表した短篇に、『青春の絆』があります。この中に。
「相変わらず大きな身体を長々伸ばして、黄色いセーターに身をくるんでいた。」
これはアメーリオが自宅で寛いでいる様子として。
「黄色いセーター」。イタリアなら、「マリオーネ」でしょうか。maglione と書いて「マリオーネ」と訓みます。
どなたかイエローのマリオーネを編んで頂けませんでしょうか。