モザイクは、象嵌のことですよね。モザイク画のこと。
細かく砕いた貴石で描くわけですから、「石描」と呼べなくもありません。mosic
と書いて「モザイク」と訓みます。モザイクは美の女神、「ムーサ」mousai と関係ある言葉なんだとか。
モザイクは、紀元前三千年頃のシュールの町、ウルクの遺跡からもモザイク画が発見されています。ということは五千年からの歴史があるのでしょうか。
古代ロオマの時代にもモザイク画は流行したとのことです。一例ではありますが。ポンペイの遺跡からも。「テレンティウス・ネオ邸」の壁画。そこには二匹の魚が鮮明に描かれています。基本的には色石ですから、時代を超えて褪せることがない。これもモザイクならではの特徴でしょう。
あるいはまた、古代のピッツア・アルメリーナの別荘跡からも、体操する若い女の様子がモザイクによって描かれています。彼女たちは皆体操服として、今の言葉ならビキニを着ているのです。おそらく今日のビキニの元祖なのでしょう。
この古代ロオマの別荘跡のモザイク画の面積は、3500平米。たぶん世界最大のモザイク画だろうと、考えられています。
有名なモザイクとしては、スペイン、バルセロナの「カサ・バトリヨ」。かのガウディが手がけた建築で、外壁一面がモザイク画で彩られているものです。
チェコのプラハにもモザイクはあります。「カフェ・インペリアル」の内装は、ほとんどモザイクの壁画で埋めつくされています。「カフェ・インペリアル」は、そのむかし、カフカがよく通った場所でもあるんだとか。
ロンドンのモザイク画では、「ウエストミンスター大聖堂」のものがあります。羽根を大きく拡げた孔雀の絵になっているものです。教会とモザイク画は切っても切れない関係にあるでしょう。
教会の大本山、バチカンの「サン・ピエトロ大聖堂」の場合、タイルが材料として用いられています。細かく砕いた色タイルを精密に並べて完成させた壁画。
海外旅行でもおなじみのモザイクとしては、ミラノのガレリアがあるでしょうか。「ヴィットリオ・エマニュエーレ二世」のガレリアに。ここでのモザイクは、路上画。アーケードの通路がすべて華麗なモザイク画になっているのは、ご存じの通り。
「伊國ノ最モ名高キ工業即チ「モザイク」と称するモノナリその美麗人ヲおどろかセリ」
明治四年に、成島柳北が書いた『航西日乗』に、そのように出ています。
明治以来、日本で「モザイク」の言葉が用いられた最初のものではないでしょうか。
モザイクが出てくる小説に、『キング、クイーン、ジャック』があります。1928年に、ナボコフが発表した物語。
「赤味を帯びた壁や、まるでモザイクを嵌めこんだような巨大な煙突、待避線に止まった貨車などが流れ去り、それから車室は暗くなった。駅だ。」
これはドラィヤーという男が列車に乗っている様子として。また、『キング、クイーン、ジャック』にはこんな描写も出てきます。
「モールスキンのコートを着た婦人と、鼈甲のメガネをかけた若い男は、チェリー酒を飲みながらお互いの眼を見つめあっていた。」
モールスキンmoleskin は、緻密な毳のあるコットンの生地。
1803年6月28日。イギリスの生地商、ジョセフ・エヴァレットの考案により、特許が与えられています。
どなたかモールスキンのスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。