ダンガリー(dungaree)

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寛ぎの親友

ダンガリーは綾織綿布のことである。よく「ダンガリー・シャツ」などという時の、あのダンガリーのこと。もっともシャツばかりではない、ワーク・ウエアに多く使われる布地でもある。

ダンガリーはデニムとよく似ている。ダンガリーもデニムも、綾織。ダンガリーもデニムも、藍染。ダンガリーとデニムで違うところを探すなら、縦横での糸使い。

ダンガリーは縦に晒し糸を配する。そして横糸に、藍染糸。藍染糸を縦に使うのがデニムであることは言うまでもない。その結果、デニムと較べた場合、やや白が勝っているようにも見える。ダンガリーもまたデニムに似て、オンスによってライトなものからヘヴィなものまでがある。

「ダンガリー」は生地。「ダンガリーズ」はそれで仕立てたパンツなどを指す。これは「ジーン」と、「ジーンズ」の関係と同じことである。

「ダンガリーは〈ダンガリー布〉のことで、インド産の粗製綿布である。またダンガリーズと複数形になるとオーバーオールス( overalls ) に似た労働服のことである。」

田中千代編『服飾辞典』 ( 1969年刊 ) には、そのように説明されている。そういえばダンガリーによるオーヴァーオールズもまたよく目にするものである。いずれにしてもダンガリーとデニムは、似て非なる代物であろう。少なくとも日本においては。

「ダンガリーはワーク・ウエアに用いられる厚手のブルー・デニムのこと。そもそもは船乗りのための労働着用であった。この言葉はデニムの同義語として使われる。デニムの項を見よ。」

フェアチャイルド版『テキスタイル辞典』の解説、その全文である。目を疑うとはこのことである。ダンガリーとデニムとが同じとは思ってもいなかったからである。が、アメリカでの「生地辞典」の類いを開いてみても、異口同音の記述になっている。アメリカではダンガリーとデニムは同じものなのであろう。

ある日本の「服飾事典」で「ダンガリー」をひいてみると、念入りな解説とともに、ダンガリー・シャツの写真が添えられている。そのダンガリー・シャツは、実際には「シャンブレー」になっている。ダンガリーが綾織であるのに対して、シャンブレーは平織。しかし日本では時と場合によってシャンブレーのワーク・シャツを「ダンガリー・シャツ」と呼ぶから、間違いないともいえない。所変われば品変るということなのであろう。とにかくダンガリーには謎めいたところが多く、興味は尽きない。

ダンガリー dungareeは、インドの地名、「ダングリ」 Dungri から来ているとの説もあるようだ。その歴史は古く、おそらくは中世のインドにはじまる、丈夫で安価な布地であったものと思われる。これが英国に伝えられたのは、十七世紀のはじめだということである。

ダンガリーから分かることは、布地の世界にも「下剋上」があるらしい。十九世紀までのダンガリーは決して位の高い生地ではなかった。たとえば「ダンガリー・セットラーズ」といえば、「貧しい農夫」の意味があったという。ところが今、デニムではなく、あえてダンガリーのジャケットやパンツを身に着けるのは粋なこととされる。これもまた「下剋上」の一例ではないだろうか。

「二人とも新しいダンガリーのズボンをはき、真鍮のボタンが光っている新しいダンガリーの上着を着ていた。」

ジョン・スタインベック著『朝めし』の一節。『朝めし』はスタインベックが1930年代に発表した短篇。

場所はサンフランシスコ、サリナス。彼らふたりは、労働者。働いた金で、新しいダンガリーの上下を買った。それが嬉しくてたまらないのだ。

では、このふたりはどんな仕事だったのか。綿摘み。1930年代のサリナスにはコットン・フィールドが拡がり、綿摘みの仕事はいくらでもあったのだ。

ジョン・スタインベックはサリナスに生まれ、サリナスに育ったわけで、そのコットン・ピッキングは郷愁でもあったに違いない。綿畠で働く男たちはたいていダンガリーを着ていたのであろう。

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