アップマンは、葉巻の銘柄ですよね。正しくは、「H・アップマン」。
「H・アップマン」が出てくるものに、かの名作『長いお別れ』があります。もちろん、レイモンド・チャンドラーの代表作。
「"アップマン・サーティー"だ。カリフォルニアに四十年いていまだにラジオを無線といっているイギリスの老紳士からの贈物だ。」
これは友人のピーターズが、マーロウに対しての科白なんですね。余談ですが、「無線」とあるところ、原文では「ワイアレス」。「ワイアレス」は、昔の英国上流階級でのラジオを指す言葉。当時のアメリカでの「ワイアレス」は、かなり気障な言いまわしだったでしょう。
ハーマン・アップマンはゆたかな銀行家で、たまたまハバナの支店を作ったので、趣味として葉巻を作ることに。それがあまりに人気になったので、自ら会社をつくることに。
「H・アップマン」のシガー・バンドに、1844と記されているのは、創業年なんですね。シダーの箱にシガーを入れることを思いついたのも、ハーマン・アップマンだったそうですね。
「H・アップマン」は英国人の会社だったので、イギリス贔屓の人が愛用した。たとえば、ジョン・F・ケネディもそのひとりだったとか。
葉巻が出てくるミステリに、『諜報指揮官 ヘミングウェイ』が。ダン・シモンズが、1999年に発表した物語。
「オハ・デ・フォルタレサ、すなわち、葉巻に香りをつける"においの強い葉"を巻いている者もいた。」
これは1941年頃のキューバが背景ですから、シガーが出てくるのも、当然でしょうね。また、こんな描写も。
「ラグラン袖の灰色の外套に、灰色のツイードのズボンといういでたちで、帽子はかぶっておらず、金髪の巻毛はいつも乱れていた。」
これは1941年頃の、ジョン・F・ケネディの姿。
ジョン・F・ケネディは、ラグラン・スリーヴのコートがお好きだったのでしょうか。
さて。ラグランのコートを着て。「H・アップマン」の社史を探しに行くとしましょうか。