タナグラ人形というのがありますよね。素朴な、テラコッタ製の人形。
でも、どうして「タナグラ人形」なのか。タナグラ Tanagra の呼び方は、1870年代にはじまっているんだとか。
1870年代、ギリシア、ボイオティア、タナグラという小さな町で遺跡としての人形が発見された。それで「タナグラ」の名前がつけられたという。
タナグラ人形そのものは、紀元前五世紀ことから、ギリシア各地で多く作られていたようです。タナグラ人形が貴重であるのは、ほとんど着衣の女性で、その時代の風俗を偲ぶこともできるからなのでしょう。
夏目漱石がタナグラ人形に興味があったのか、どうか。あるいはタナグラ人形を蒐めていたのか、どうか。
「一本は佛蘭西に居る姉婿宛で、タナグラの安いのを見つ付けて呉れといふ依頼である。」
夏目漱石著『それから』には、そのような一節があります。もちろんこれは主人公の「代助」が、手紙を書く場面。多少なりとも漱石もまた、タナグラ人形に関心があったものと思われるのですが。
タナグラ人形が出てくる小説に、『青い麦』があります。1923年に、フランスの作家、コレットが発表した物語。
「客は彼女を《タナグラの人形》みたいだと言って、シャルトルーズ酒を飲ませたり…………」。
「彼女」とはまだ少女の、ヴァンカのこと。また『青い麦』には、こんな描写も出てきます。
「ストライプの入ったブレザー、タッサーシルクの背広を着て……………」。
「タッサー」 tussah は、「さくさん絹」のことです。特別な蛾の一種からもたらされる糸のこと。「天蚕蛾」 ( やままゆが )の糸。多く、むかしの中国に産した糸。ふつうポプリンに似た表面感に仕上げることが多いものです。
やや趣味的な、道楽の極みとも言いたい生地でもあります。