ストローは便利なものですよね。アイス・ティーだとかアイス・コーヒーなんかを飲むときに、氷を口に入れることなく、冷えた飲物だけを味わえる点で。
ストローがどうしてストローなのか。昔はほんとうに「麦藁」だったからです。
麦は植物で、茎に穂が稔り、穂の中に麦の実が入っている。麦の実を取り出した後の穂は不要になるわけです。この不要品の茎、その両端を切ると、「ストロー」になる。
ストローが出てくる小説に、『夢の浮橋』があります。倉橋由美子が、1971年に発表した長篇。主人公は桂子という知的女性。場所は、京都。京都の「マロニエ」という喫茶店で。
「桂子は微笑してストローをくわえた。」
余談ですが、「マロニエ」は庭のある喫茶店で、自家製のケーキが美味しい店なんだとか。
同じくストローの出てくる小説に、『アラバマ物語』があります。『アラバマ物語』は、1960年に発表された、アメリカの物語。著者は、ハーパー・リー。発売されて、すぐに一千万部に達したベスト・セラー。1962年には映画化もされています。
「二本の黄色いストローをくわえて……………」。
『アラバマ物語』の時代背景は、1930年代。ということはおそらく麦藁の「ストロー」だったものと思われます。
『アラバマ物語』は、ある冤罪をめぐる物語。その弁護を引き受けるのが、弁護士の、アティカス。アティカスを演じるのが、グレゴリー・ペック。名演。グレゴリー・ペックは『アラバマ物語』のアティカス役で、アカデミー、主演男優賞を得ています。
『アラバマ物語』は、弁護士のアティカスの娘、ジーン・ルイーズの目で語られる物語なのです。感動の一語に尽きる小説です。
娘が父に訊く。「その裁判に勝てるの?」。これに対して、アティカスはこう答える。
「勝ち負けが、はじめる前にきまっているからといって、それだけの理由で、勝つ努力をしてみないって法はないだろう。」
結局、この事件は冤罪だったのですが。『アラバマ物語』にはこんな場面も。
「明るいブルーの布の奥にきこえるかすかな物音 ー 時計のチクタクという音、糊のきいたワイシャツの音………………………」。
これはジーン・ルイーズが、アティカスの胸に顔を預けている場面。
1930年代の弁護士、アティカスはかなり厚い糊のシャツを着ていたのでしょう。さわると「音」がするほどに。
シャツの糊の厚さについてはむかしから議論のあるところでしょう。が、時にドレス・アップするならやはり「音」がするくらいの糊づけにしたいものですね。