イケムで、白ワインでといえば、シャトオ・イケムでしょうね。美酒。いや、美酒の中の美酒。あるいは、「美酒の王様」と、宣うお方もいらっしゃるかも知れませんが。
シャトオ・イケム 1959年をお飲みになったのが、四方田犬彦。『CH・イケム一九五九年』という随筆にお書きになっています。
「彼が終生秘蔵していたシャトー・イケムの一九五九年を呑むという機会に数年前に恵まれた。」
ここでの「彼」は、吉田健一のこと。吉田健一が持っていたシャトオ・イケムを開けることにという話なのですね。
シャトオ・イケム 1959年は、ことに評価が高い名酒なんだそうです。ある時、吉田健一は、シャトオ・イケムを牡蠣に合わせたことがあるらしい。が、それは失敗であったと。吉田健一著『酒談義』の中に、書いています。
ところがお父さんは、シャトオ・イケムに牡蠣を合わせた。これは時代の違いで。戦前には、シャトオ・イケムで牡蠣を食べるのは不思議でもなんでもなかった。戦後になってからは、辛口ワインで牡蠣を食べるように変わったということなんでしょうね。
ところで、シャトオ・イケム1959年を飲んだ四方田犬彦はどう思ったのか。
「さながら秋の静かな山を歩いていて、ふと眼下に清麗な水を湛えた湖を発見したような悦びがあった。」
うーん。シャトオ・イケム1959年を口に含むと、こんな表現が出てくるのでしょうね。
シャトオ・イケムがお好きだったのが、森 茉莉。
「葡萄酒はフランス産の最高級品のシャトオ・ラフィット、シャトオ・イキュエム、またはボルドオ産………………」。
森 茉莉著『私の中のアリスの世界』に、そのように書いています。まあ、「シャトオ・イキュエム」と書いて気障にならないのは、森 茉莉くらいのものでしょうね。『私の中のアリスの世界』には、こんな話も出てきます。
「それが二人の個性に合っていて、いきである。」
「二人」とは、テルジェフと、ブリアリのこと。イタリア映画『狂った夜』に出てくる俳優のネクタイの結び方が粋だと、おっしゃっているのです。
『狂った夜』を観るとしましょうか。側に、シャトオ・イケムがあると、さらによろしいのでしょうが。