スパニッシュで、美味しいものでとなりますと、スパニッシュ・オムレツでしょうね。
スペイン風オムレツ。トルティージャとも呼ばれるんだそうですが。たとえば、ポテトを入れたオムレツだとか。「スペインのお好み焼き」と言っても、それほど見当はずれでもないでしょう。
とにかく「お好み」なんですから、何を入れても「スパニッシュ・オムレツ」に近くなってくれるのです。
スパニッシュ・オムレツが出てくる小説に、『雲のゆき来』があります。1966年に、中村真一郎が発表した物語。
「次手にスパニッシュ・オムレツとフレンチ・トーストとオートミルとトマト・ジュースという、習慣外れの ( 私にとっては ) ガルガンチュワ的朝飯を部屋に取り寄せた。」
たしかに充分な朝ごはんですね。中村真一郎といえば。ある時、三島由紀夫は、中村真一郎に葉書を書いて、こんなことを言っております。
「作家は一生初恋をしつづけなければならないのだと思ひますが。意を尽くせません。」
昭和二十二年十月十九日の日付になっています。作家は、書くことに、一生、初恋をしなければ。まあ、その通りなんでしょうね。
同じように、料理人は料理に対して、一生、初恋を抱かなくてはならない。うーん。そうであって欲しいものですね。
スペインが出てくるミステリに、『さむけ』があります。1963年に、ロス・マクドナルドが発表した物語。
「それは町はずれの海岸にあるプエブロ風のホテルで、スペイン風の庭園のあちらこちらに一泊百ドルの離れ家が点在している。」
これは「サーフ・ホテル」の様子。もっとも「百ドル」は、1960年頃の金額なんでしょうが。
また、『さむけ』には、こんな描写も。
「服装は黒っぽいトップコートと、黒っぽい鍔の折れた中折帽。」
「鍔の折れた」は、スナップ・ブリム sn ap br im のことかも知れませんね。
スナップ・ブリムとは逆に、鍔を上に上げることを、「オフ・ザ・フェイス」 off th e fac e と言います。
たとえばホムブルグやボウラーは、代表的な「オフ・ザ・フェイス」の帽子でありましょう。
まあ、スナップ・ブリムの帽子で、美味しいスパニッシュ・オムレツを食べに行くと致しましょうか。