ビールは、麦酒のことですよね。麦を原料とした飲み物なので、「麦酒」なんでしょう。
ビールはなんらかの器に入れて、右側に置いておくとして。その左側にはいったい何が好ましいのか。
それはもう千差万別。いや、むしろビールに合わない友を探すのがはやいくらいのものでありましょう。
その星の数ほどのひとつと考えて頂きたいのですが、タマネギ。タマネギを少し口運んだ、ビールを頂く。これは実に美味いものであります。
新鮮なタマネギを好みの大きさに刻みます。刻んだタマネギは少しの間、水に晒しておきます。頃合い見計らって、水から上げて、布巾などに包みましょう。
布巾などに包んだタマネギをば、親の仇とばかりに絞りに絞る。絞りあげてタマネギを適当な器にあけて、オカカをふりかけて、ほんの少し、醤油をたらす。これで完成ですから、簡単至極。
まあ、あえて申しますと、「和風タマネギ・サラダ」でしょうか。好みも様ざまでしょうが、ビールのお供に最適かと。
ところが、春山行夫の『ビールの文化史』を読んでおりますと。古代エジプトの時代、ビールとタマネギの組み合わせはすでにあったんだそうですね。
古代エジプトのピラミッド。あのピラミッドの建設に携わって労働者には、ビールとタマネギが与えられたんだという。いや、それ以上に、ビールとタマネギは不老長寿の薬とも考えられていたらしい。
それはともかく、古代エジプトの時代にビールがあったのは、間違いないようですね。では、古代エジプト人はどうやって、ビールを造ったのか。
まず、原料となる麦の殻を外して、中身を得る。中身を得たなら挽いて粉に。粉を練って、パンに焼く。焼いたパンを水に漬けて、麦汁を得る。この麦汁を容器に詰めて、自然発酵を待つ。
おおよそ、そんな手順で、古代エジプトのビールは造られたんだそうですね。
ビールが出てくる小説に、『ムッシュー』があります。1986年に、フランスの作家、
ジャン=フィリップ・トゥーサンが発表した物語。
主人公は、二十九歳の男性。会社員。「フィアット社」の営業課。でも、名前が示されていないので、『ムッシュー』なんですね。
「椅子にゆったり腰を下ろし、ズボンの裾をたくし上げると、ビールを一杯注文する。」
これは社内のカフェテリアでの様子として。
「ムッシュー」は会社員ですから、時と場合によっては、メトロに乗ることも。そのメトロに乗ったときに。
「若者はそこに腰を下ろすと、着ているピーコートの襟を立てた。」
「ムッシュー」の近くの席に座った青年の様子なんですね。
これはたぶん「ピー・ジャケット」なんでしょう。古い時代の、オランダ語である、
「ピー・イエッケル」p ij jekk er が語源とも言われています。「ピー」は、極厚の生地名だったそうです。ただし、立ち働きの便から、着丈の短い上着だった。それで「ピー・ジャケット」の呼び方になったものと思われます。
どなたか極厚地でピー・ジャケットを仕立てて頂けませんでしょうか。