硝子戸とガウチョ・ハット

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硝子戸は、硝子の入った戸口のことですよね。
昔は個人の家でも、商店でも、硝子戸を開けて入る構造が少なくなかったようですね。立派な門構えというよりは、わりあい庶民的な印象の家の造りだったのでしょう。
夏目漱石が、大正四年に書いた小品に、『硝子戸の中』があります。遠回しに「私の家は地味ですよね」と匂わせているのではないでしょうか。

「中入りになると、菓子を箱入の儘茶を売る男が客の間へ配つて歩くのが此席の習慣になつてゐた。」

漱石の『硝子戸の中』に、そんな一節が出てきます。
これは明治の頃、寄席についての説明なのですが。
漱石が菓子好きだったのは本当のようですね。
夏目漱石といえば、ジャムの話があります。一月に八缶のジャムを開けたとか。

「漱石が食べ、否、舐めていたのはおそらく舶来の一缶五十銭か六十銭のジャムであったと思われる。」

漱石のお孫さん、半藤末利子著『硝子戸のうちそと』に、そのような文章が出てきます。
漱石がジャムがお好きだったのも、事実なのでしょう。そして、そのジャムは舶来の、高級品だった。もし、それが「八缶」なら、羨ましがられても、致し方ないでしょう。
ガラス戸が出てくるミステリに、『眠れる美女』があります。1973年に、ロス・マクドナルドが発表した物語。

「彼が横開きのガラス戸の錠をあけて、私を残したまま家に入って行った。」

ここでの「私」が、私立探偵のリュウ・アーチャーであるのは、言うまでもないでしょう。
また、『眠れる美女』には、こんな描写も出てきます。

「乗馬姿でメキシコ風の帽子をかぶり、柄の長い鞭を上に向けて持っていた。」

これはリュウ・アーチャーがはじめて会った、ハブグッド婦人の着こなしとして。
「メキシコ風の帽子」。私は勝手に、ガウチョ・ハットを想像したのですが。
ガウチョ gaucho はもともと南米のカウボーイを意味する言葉。ここから転じて「ガウチョ・ハット」は、クラウンもブリムもともに水平に仕上げられた帽子のこと。
一説に、西部開拓時代のカウボーイ・ハットの源とも考えられています。色は必ず黒で、堅く仕上げられるものです。
どなたか都会にも向くガウチョ・ハットを作って頂けませんでしょうか。

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