ヴェールは、面紗のことですよね。むかしの日本語では、「面紗」と書いたんだそうです。
女の人が顔にかぶる薄布なので、「面紗」。もちろん今ではヴェールの方が一般的ですが。veil と書いて「ヴェール」と訓みます。
これはラテン語の「ヴェルーム」vēlum と関係があるんだそうです。その意味は、「帆」。ヴェールは顔の前の「帆」だったのでしょうか。
花嫁に欠かせないのが、ウエディング・ヴェール。あのウエディング・ヴェールを開いて最初に新婦の顔を見るのは、新郎。たぶんそういうことなんでしょう。
まあなにごとも、「包装紙」は大切ですからね。
「十八歳で姿の好い女、曙色か浅緑の簡単な洋服を着て、面紗をかけて………」
石川啄木が、明治三十九年に発表した小説『葬列』に、そのような一節が出てきます。
石川啄木は、「面紗」と書いて「ヴェール」のルビを添えているのですが。これは物語の主人公の理想として。洋食屋の女給仕が、そんな姿だったらなあと、夢想している場面なんですね。
この小説の背景は、明治三十年代の盛岡になっています。明治三十年代の盛岡には、すでにレストランがあったらしい。
ヴェールが出てくる戯曲に、『出口なし』があります。1944年に、ジャン・ポオル・サルトルが書いた芝居。
「そう、黒いヴェールのかげに、涙が二つ、ちっぽけな涙が二つ光ったわ。」
これは「エステル」の科白として。
サルトルの演劇『出口なし』は、1944年の6月。巴里の「ヴィーユ・コロンビエ劇場」で公演されています。
また、『出口なし』にはこんな会話も出てきます。
「あら、いけません! (もっと静かに) いけません。あたし、シャツ一枚のかた、大きらい。」
これも「エステル」の言葉として。
「ガルサン」が上着を脱ごうとして注意される場面。
上着。フランスなら、「ヴェスト」veste でしょうか。
たとえば真夏のパリの名のあるレストランで食事中。上着を脱ぐとやはり注意されます。ヴェスト(上着)を着ているのが、紳士。ヴェストを着てないと紳士ではないからです。
どなたか一度着ると脱ぎたくないヴェストを仕立てて頂けませんでしょうか。