老若男女とローデン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

老若男女は、「みんな」ということですよね。老いも若きも、女の子も男の子も、みんな。人間全部ということでしょう。
老若男女と書いて、「ろうにゃくなんにょ」と訓みます。
今の老若男女と、昔の老若男女とは違うのでしょう。人生五十年と言われた時代の「老」とやがて百歳を目前にした「老」とは、かなり意味が違います。七十、八十で現役の人はたくさんいますからね。
「男女」にも似たような事情があるようです。江戸時代の「男女」と、令和の「男女」とでは大いなる隔たりがあります。少なくとも男の子は弱く、女の子は強い傾向があります。
つまり今の時代の「老若男女」は、ほんとうに全員参加という印象があるのです。

「人間の精神に、老若男女の別なく」

森 鷗外が、大正四年に発表した歴史小説『最後の一句』に、そのような言葉が出てきます。
物語の背景は、江戸時代の元文三年の、大阪に置かれています。
森 鷗外は言葉にお詳しいお方でありました。ここから想像して、江戸期にもすでに「老若男女」の言い方はあったものと思われます。

老若男女。1980年代のヨオロッパで、老若男女に流行った外套に、ローデンがあります。ローデン・コート。
loden と書いて「ローデン」と訓みます。
昔、スイスのティロル地方に、ローデンと呼ばれる極厚の紡毛地があったらしい。このローデンで仕立てた外套なので、「ローデン・コート」と呼ばれたのです。
ローデン・コートはもともとスイスの農民の民族衣裳だったのでしょう。が、まず第一に、そのシルエットが、美麗でありました。ごく簡単に言って、Aライン。肩はやや狭く、そこから裾に流れるラインが裾拡がりだったのです。
色は多くローデン・グリーン。深い森を想わせるダーク・グリーン。もちろん、その外、ダーク・ブルウやダーク・グレイなどもありましたが。
緻密なウール地なので、多少の雨なら平気という便利さをも持っていました。また厚手の、ロング・コートであるのに、着やすい外套。その秘密は、脇の下にあったのです。
脇の下に約六センチほどのスリットが用意してありました。このわずかなスリットのために、両手の動きがとても楽だった。ことに冬の重ね着の時などには。
人はなぜ、競って、ローデン・コートを着たのか。やはり暖かくて、機能的という点もあったでしょう。それにフォークロアでもあり、農民の防寒具から出ていますから、威張っところのまったくない外套でもあったのです。
そして、もうひとつ。「森への郷愁」があったのでしょう。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone