キスとギャバディン

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キスは、接吻のことですよね。口づけとも。フランスなら、ベエゼでしょうか。
ある百科事典でキスを探しますと、「接吻を見よ」と出ていました。その百科事典の説明によりますと。
もっとも神聖なキスは、足への接吻だと書いてあります。これは十一世紀、教皇、グレオリオ七世の時にはじまった習慣なんだそうです。
キスなのか、接吻なのかはさておき、それは明治に入ってからのことなんだそうですね。江戸時代以前の日本では接吻の習慣はなかったらしい。

「………軈て束髪の一枚を取挙げて、生けるが如く接吻すると、涙がほつたりと写真の横顔をぬらした。」

尾崎紅葉の『多情多恨』に、そのような一節が出てきます。尾崎紅葉は「接吻」と書いて「キツス」のルビをふっています。日本の小説にあらわれたキスとしては、かなりはやいものかも知れませんね。

「余は手袋をはめ、少し汚れたる外套を背に被ひて手をば通さず帽を取りてエリスに接吻して楼を下りつ。」

森 鷗外の『舞姫』に、そのような一節が出てきます。
明治のはじめ、早くにキスをした日本の文人は森 鷗外ではなかったでしょうか。

キスが出てくるミステリに、『海馬を馴らす』があります。1986年、ロバート・B・パーカーが発表した物語。

「スーザンが手で私の顔を挟んで口に軽く接吻した。」

スーザンは、スペンサーの恋人という設定になっていること、言うまでもないでしょう。
また、『海馬を馴らす』には、こんな描写も出てきます。

「そのカウンターの端に、ベージュのギャバディン・スーツに黒のカウボーイ・ブーツをはいた背の高い男が寄りかかっていた。」

これは事件の調査中に、スペンサーが出会った男として。
「ギャバディン」gabardineは、綾織物。もともとは麻織物。やがてウールのギャバディンが多く用いられたものです。今のトレンチ・コートに使われるのは、コットン・ギャバディン。
1940年代末から、1950年代はじめにかけて、ウール・ギャバディンのスーツが大流行になったものです。
どなたか1950年代のギャバディン・スーツを復活させて頂けませんでしょうか。

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