ピンチョスはバスク料理のひとつですよね。というよりも、バスク料理の代表選手かも知れませんが。
ピンチョスを無理矢理日本語にすると、「小皿料理」でしょうか。小さなオープン・サンドウイッチに似ていなくもありません。ピンチョスはそれこそ、星の数ほどあります。ありとあらゆる食材が、ピンチョスの材料として使われる。
その可愛いピンチョスを、串で刺して、指で摘んで、口に運ぶ。食前酒を飲みながら、前菜代りに、バールで。
バスクにバールは多く、ピンチョスの数はもっと多い。で、バールをハシゴしていろんなピンチョスを愉しむわけです。
バスク地方の有名な美食都市が、サン・セバスチャンですね。この海辺の、小さな町に、いくつもの三つ星レストランがあります。
ただそれだけでも驚くべきですが、サン・セバスチャンには「美食クラブ」があります。なんでも1870年から続いているんだとか。サン・セバスチャンの「美食クラブ」は年に一回、総会を開いて、美食尽くしの一夜が繰り広げられるのです。
美食の話が出てくるミステリに、『崖の家』が。トム・サヴェージが、1994年に発表した物語。
「カンタループのスープ、クレソンとトマトのサラダ、それに、名前は忘れたが、このあたりでとれる小エビの一種……」
前菜がこんなふうにはじまって。メインディッシュは、ロースト・ラム。さらには。
「カラルーとかいう名前の島の名物料理で、ほうれん草とオクラと細切れの豚肉が入っていて、とてもおいしそうだった。」
「島の名物料理」とは。これは物語の背景が、カリブ海に浮かぶセント・トマス島になっているからなんですね。そして著者の、トム・サヴェージはセント・トマス島の出身。詳しいはずですよね。また、こんな描写も。
「長袖のピンクのコットンシャツは糊がきいていて、胸ポケットにはAPと刺繍してある。」
これは、アダム・プレスコットという男の着ているシャツ。さて、これはどんなピンクなのか。
上品なピンクのシャツを着て。ピンチョスを食べに行きたいものですね。