ゴルフ(golf)

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蘇式探玉

ゴルフはクラブでボールを打ってホールに入れるスポーツである。しかしこのような説明は不要であるほどに普及していること、言うまでもない。
ゴルフ golf はただひと言で世界に通用する言葉でもあろう。が、その起源はよく解ってはいない。おそらくはオランダからスコットランドに伝えられたものであろうと、考えられてはいるのだが。
ゴルフは古くは、 goff とも、gouffとも、gowffとも綴られたようである。そしてこれらは、オランダ語の「コルフ」 kolf から来ているのではないか、との説がある。「コルフ」は「棒」の意味であったという。
たしかに古い時代のオランダに「コルフ」と呼ばれるゲームがあったらしい。ただそれは、氷上での球技であった。氷の上に棒を立て、その棒にもっとも近づけるように、ボールを打った。このオランダでの「コルフ」がスコットランドに齎されて、今のゴルフになったのであろう、と。
スコットランドでのゴルフはもちろん氷の上ではなく、大自然の土の上で行われた。ことに海辺の大自然で。そのために今も、「ゴルフ・リンクス」と呼ばれることがあるのだ。
ボールをクラブで打ってホールに入れる。誠に単純なスポーツである。が、この単純なスポーツがスコットランドで流行る。いや、流行り過ぎる。そこで何度も「ゴルフ禁止令」が出されている。
たとえば1457年の3月に、スコットランド議会はゴルフを禁止している。その理由は、武芸の稽古の妨げになるからであった。ことに弓術練習の。ということは、1457年のスコットランドではすでにゴルフが流行していたのである。そしてもうひとつには、ゴルフが主として騎士階級のスポーツであったことをも窺わせる。オランダでの「コルフ」は庶民のゲームであったのだが。
1491年にも時のスコットランド王、ジェイムズ四世が「コルフ禁止令」を出している。つまり何度禁止されても止められないほどのスポーツだったのだ。そしてこの時のお触れには、 gouff の綴りが用いられている。おそらくはこの gouff がイングランドに伝えられて、golf となったのではないだろうか。
かのメアリー・スチュアートがゴルフを愉しんだのは、有名です話であろう。女性ゴルファー第一号といっても、それほど的外れではない。今も使われる「キャディー」 caddie は、メアリー・スチュアートがフランスから連れ帰った若い「カデット」 cadet から出ている。フランスの「カデ」をゴルフ助手に使ったからである。
それはともかく現在のゴルフがスコットランドから世界に拡がったことは、まず間違いない。ゴルフ、ウイスキー、トゥイード。少なくともこの三つはスコットランドに端を発して世界で愛されているものであろう。そしてまた、ゴルフにはトゥイードも、ウイスキーもよく似合う。

「神は私にゴルフの愉しみを、お与え下さいました。」

英国王、ヘンリー八世の妃、カサリンは大司教、トーマス・ウルジーに充てた1513年の手紙中で、そのよう書いている。ここから想像するに、遅くとも十六世紀はじめには、イングランドにゴルフが伝えられていたものと思われる。
少し話は飛ぶのだが、1744年にはゴルフ・トーナメントが行われている。スコットランドのリースで。1744年4月2日こと。この時は、ジョン・ラトレーという人物が優勝している。これはゴルフ・トーナメントとしては、比較的はやい例であろう。
今なおゴルフの総本山とされるセント・アンドリューズ・ゴルフ・コースが、18番ホールとして完成するのは、1764年のことである。
それ以前のセント・アンドリューズはほとんど人の手が入らない自然のリンクスで行われたのである。

「赤いジャケットの上にブルー・ヴェルヴェットのケープを重ねる。ケープにはシンプルなボタンと、刺繍でクラブの紋章を描いたバッジが付けられる。」

H・H・ヒルトン、G・G・スミス共著『ロイアル・アンシェント・ゲーム・オブ・ゴルフ』にはそのように記されている。これは1784年頃のゴルフ・ウエアを語った部分である。クラブの紋章は「バッジ」と呼ばれたらしい。それは金糸、銀糸を使っての豪奢なものであったのだ。
それはともかく十八世紀のゴルフ・ウエアには多く真紅の上着が用いられたとのことである。

「メタル・ボタンの付いた真紅の上着には、グリーンの襟が付いていて、胸にはバッジがあしらわれる。トラウザーズは純白である。」

ジョン・ケイ著『エディンバラの光景』には、そのように書かれている。これは1815年頃のゴルフ・ウエアを描いたものである。真紅の上着が、トゥイード・ジャケットに変わるのは、二十世紀に入ってからのことである。トゥイード・ジャケットからさらにスェーターになるのは、1930年代のこと。

「黄ばみかけた黒白の千鳥格子の上着を脱ぐと、色あせた黒いジャンパーを着る。」

イアン・フレミング著『ゴールドフィンガー』 ( 1959年 ) の一節。これはジェイムズ・ボンドが、ゴールドフィンガーとゴルフをする場面。「黒いジャンパー」は、もちろんスェーターのことである。
ゴルフはこの上なく単純なスポーツ。ただし、山あり谷あり。なんと人生に似たスポーツであることか。

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