母と靴

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母は、お母さんのことですよね。
男の子にとってお母さんは、どんな存在であるのか。

「女といふにが美しいものであることをその時始めて知つた。」

吉田健一は、『母に就て』の中に、そんな風に書いています。これは大正八年、巴里でのこと。吉田健一は、七歳くらい。
「母」とはもちろん、吉田雪子。第一次大戦後の、「パリ講話会議」に一緒に行った時の話。
吉田雪子は夜会の前に、赤い天鵞絨のドレスを着て、化粧をする。その母を見ての健一の感想。
吉田健一の言葉に、「三楽」。食べる楽しみ。飲む楽しみ。書く楽しみ。これが吉田健一の「三楽」だったそうですね。
「本は五百冊もあればいいよ」
これもまた、吉田健一の口ぐせ。英文学者としての五百冊は、決して多くはないでしょう。ただし、吉田健一は記憶力、抜群。飲みかつ食うの後に、談論風発。と、ごく自然に、ボオドレエルやマラルメの詩口から流れ出たという。
これは昭和五年に、英国のケンブリッジ大学で学んだ折の習慣だったそうですね。その吉田健一は。

「あるいはむしろ英国のそれもむしろロンドンの空気といふものが強烈に感じられたからで………」。

と、書いています。『ヴァージニア・ウルフを廻つて』の中に。
ヴァージニア・ウルフが、1927年に発表したのが、『燈台へ』。この中に。

「ああ、そうです、第一級の靴です、と言いました。こんな靴を作れる靴屋は英国中にたった一人しかいませんよ。」

リリーがラムゼイの履いている靴に注目した時の、ラムゼイの科白なんですね。これに続けて、紐結びの秘法がえんえんと語られる。ということはたぶんオックスフォード・シューズなんでしょう。
世の中には、佳い靴というのも、あるんでしょうね。

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