影と題につく歌に、『影をしたいて』がありますよね。
🎵 おぼろしの影をしたいて………。
古賀政男の作詞作曲。昭和六年の歌なんだとか。たしか、藤山一郎が歌っていたような記憶があります。
影をしたう人がいれば、影をなくす人もいて。シャミッソーは『影をなくした男』という小説を書いています。1814年のこと。今からざっと二百年ほど前のことです。
『影をなくした男』の主人公は、ペーター・シュレミール。ペーターは自分の影と、不思議な革袋とを交換する話なんですね。この不思議な革袋は、次々と金貨が出てくるので、ペーターはたちまちお金持ちに。
作者の、シャミッソーはもともと優れた植物学者。その一方で詩人でもあった人物。シャミッソーは1781年に、フランスのシャンパーニュに生まれています。ルイ・シャルル・アドライード・ド・シャミッソーとして。ボンクール城で。お父さんが名門貴族だったから。
1789年にフランス革命。そのためにシャミッソー家はフランスから亡命。ヨーロッパを転々として、1790年にはとりあえずベルリンに落ち着くことに。こうしてルイ少年は、フランス人でもあるような、ドイツ人でもあるような人生を送ることになるのです。シャミッソーの人生を描いたなら、たぶん小説以上の物語になるでしょう。
シャミッソーは植物学者ですから、植物採集には「クルトカ」という上着を着たという。クルトカは『影をなくした男』にも出てきます。
「私は「クルトカ」と呼ばれる古ぼけた黒い上衣をもっていて、ベルリンにいた頃、しきりに愛用していたのですが………」
ここでの「私」が、物語の主人公、ペーター・シェレミールであるのは、言うまでもありません。が、作者のシャミッソーが「クルトカ」を着たのも間違いないところです。では、「クルトカ」はどんな上着だったのか。『影をなくした男』には挿絵が添えてあって、「クルトカ」もちゃんと描かれています。それは丈長の、ダブル前の上着。高い立襟で、胸元には肋骨飾りがあります。が、当時としては寛いだ服装だったようです。
なんとか「クルトカ」を今様に復活させたいものですね。